更新日:2019/04/01

    将来のデジタル社会を支えるネットワークの変革─ネットワーク基盤編─
    GNSSとネットワークの連携による高付加価値位置情報サービス

    吉田 誠史(よしだ せいじ)/ 桐原 誉人(きりはら たかひと)/ 坪井 俊一(つぼい しゅんいち)/ 豊野 剛(とよの つよし)/ 桑原 健(くわはら たけし))

    NTT ネットワーク基盤技術研究所

    背 景

    GPSは1990年代からカーナビをはじめとする民生用途に使用され、今日GNSS(Global Navigation Satellite Systems:全地球航法衛星システム)による測位はスマートフォンを含む幅広いアプリケーションに活用されています。国内では2018年11月から「日本版GPS」である準天頂衛星システムの本格運用が開始され、補強信号を使用した高精度(精密)測位が大きな関心を集めています。

    NTTネットワーク基盤技術研究所ではデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速するスマートな社会(Smart World)の実現へ向け、GNSSとネットワーク・クラウドのシナジーにより位置計測の分野において新たな付加価値を創造することをめざした研究開発を行っています。

    航法衛星信号により理想的には地球上のどこでも高精度な測位を実現することができますが、実際の測位精度は衛星信号の受信環境に大きく影響されます。この課題はこれまで主にGNSSレシーバの性能向上により解決が試みられてきましたが、あらゆるデバイスがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)の実現を前提とし、クラウド・エッジにGNSS測位演算処理の一部を担わせることによって抜本的な課題解決を図るとともに、位置情報に新たな付加価値を与えることが本取り組みの目的です。

    GNSS測位の機能配備多様化とクラウドGNSS測位アーキテクチャ

    GNSS測位は図1に示すように多様なアプリケーションで使用されます。自動走行車等の高速移動体では高頻度な測位が求められる一方、測量では静止状態で高い測位精度が求められます。スマートフォンやカーナビでは数メートルの測位精度が得られるコード測位(Code-based positioning)*1方式が使用され、測量ではセンチメートル級の測位精度を実現する搬送波位相測位(Carrier-phase based positioning)*2方式が使用されています。搬送波位相測位では波数アンビギュイティ(Wavenumber ambiguity)*3の解決のために高度な演算処理が必要になります。これまではコード測位方式に対応した汎用的なGNSSレシーバ製品と搬送波位相測位方式に対応した特殊用途向けのハイエンドなGNSSレシーバ製品はアプリケーションに応じて使い分けられていました。現状では搬送波位相測位方式に対応したレシーバ製品は高コストであり、適用領域拡大の阻害要因になっています。さらに、アプリケーションには測位精度や頻度だけでなくコストや省電力性能といったさまざまな要件があり、レシーバチップ(ハードウェア)でこうした多様な要件をカバーするのは難しくなっています。

    クラウドGNSS測位アーキテクチャでは測位演算の機能配備の一部をクラウド側に移すことによって測位点では低コストの汎用的なGNSSレシーバを使用し、測位方式の違いやアプリケーションによる測位性能の要件の違いは基本的にクラウド側の処理で吸収します。つまり単一のレシーバで「マルチグレード」な測位を実現することをめざす新しいGNSS測位のアーキテクチャです(図1)。最終的な測位演算処理は測位点のGNSSレシーバの内部ではなく、レシーバから転送された観測データ(Observation data)*4を使用してクラウド側で行い、測位演算結果(座標値)が測位点に返送されます。

    本アーキテクチャではクラウド・エッジ上のCPU・GPUを基盤とした潤沢なコンピューティング・リソースを活用し、衛星選択処理を含む高度な測位演算処理を行います。搬送波位相測位では初期測位演算時間を大幅に短縮するだけでなく、NTTビルのローカル基準局を含むさまざまな補強信号をシームレスに選択することができるメリットがあります。また、2次元地図や3次元の建物データ等の地理空間情報やAI(人工知能)や機械学習などの手法をGNSS測位へ適用するといった、これまでにないアプローチも考えられます。さらにはクラウド上での位置情報を活用した多様なアプリケーションとの高度な連携も考えられます。

    観測データの出力に対応した汎用的なGNSSレシーバ製品は最近増加しており、一部の製品は複数の周波数帯(マルチバンド)に対応しています。また、スマートフォンではAndroid OS バージョン7から一部の端末において内蔵のGNSSレシーバの観測データをAPI(Application Programming Interface)で取得できるようになり、今後、対応端末が拡大することが期待されます。

    GNSSとネットワークのシナジーとしてはA-GNSS(Assisted GNSS)*5が携帯電話やスマートフォンなどに導入されていますが、本アーキテクチャはさらに高度な両者のシナジーと位置付けることができます。従来、GNSSレシーバチップセットの内部で行われていたGNSS測位演算処理が今後はクラウド・エッジ以外にもスマートフォンのアプリケーションや車載プロセッサ等で実行され、測位演算の機能配備の形態が多様化することが想定されます。私たちは今後の動向を見据え、適用領域に応じた最適な機能配備を柔軟に実現することをめざしています。

    1. *1コード測位:航法衛星信号の受信位置への到達時間の計測において衛星に固有のコード信号を使用する通常のGNSS測位の方式です。
    2. *2搬送波位相測位:航法衛星信号のコード信号に加え,搬送波の位相情報を観測することによる精密測位方式です.条件の良い場合には 1 cm以下の精度での精密測位が可能です。
    3. *3波数アンビギュイティ:受信点までの航法衛星信号の搬送波の波数が未知であることです。
    4. *4観測データ:GNSSレシーバの測位演算における疑似距離および搬送波位相計測の結果の情報です。Raw data(生データ)とも呼ばれます。
    5. *5A-GNSS:モバイル網を経由して航法衛星の軌道情報を短時間に配信する方式です。
    図1 クラウドGNSS測位アーキテクチャの概要
    図1 クラウドGNSS測位アーキテクチャの概要

    Smart Mobilityへの適用事例

    クラウドGNSS測位アーキテクチャのSmart Mobilityへの適用事例として走行車両の位置計測のユースケースを紹介します。

    高層の建造物が林立し、道路が碁盤目状に近接するアーバン・キャニオン受信環境では衛星信号を見通し状態で受信できる開空間が制限され、衛星信号が建物で反射・回折したマルチパス信号を受信することによって測位精度が大幅に劣化します。…

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