概要
これまで通信インフラを支えてきた蓄電池に関する技術や知見を活かし、無害でレアメタルフリーな低環境負荷な電池として、電池部材が肥料成分から構成された、土壌や生物へ悪影響を与えない電池(土に還る電池:ツチニカエルでんち®)を作製し、電池動作を確認しました。今後、本電池を活用した、無害でレアメタルフリーな低環境負荷なセンサを実現することにより、土壌水分センサや、生態系、土壌などの環境モニタリング、洪水、汚染、気象などに関するイベント検出など、自然との共生親和性が求められる分野での新しいビジネスの創出が期待されます。
背景・従来課題
「1兆個のセンサが社会革命を起こすトリリオンセンサー時代(trillion:1012)が到来した時、あらゆる場所にあるセンサは全て回収できるのだろうか?」IoTの発展に伴い、様々なセンサがばら撒かれると予想されていますが、センサや電池の交換・回収に関して十分な議論は行われていません。(図1)
今後、センサが普及すると、”回収⇒再利用”というエコシステムが破綻する危険があり、そのような状況下では、回収が難しいセンサ・電池は、そのまま放置され、土壌や生物などへ大きな影響を及ぼす可能性があります。NTTは、このような課題を解決する要素技術として、回収困難な場合も土壌や生物へ影響を与えない土に還る電池(ツチニカエルでんち®)を発想し、研究開発を行ってきました。
本技術のアドバンテージ
- 生物由来カーボンを空気極に適用し、電池部材が全て肥料成分のみで構成された「土に還る電池」を提案し、基本動作を確認しました。
利用シーン
- 本電池を用いることで、自然との共生親和性が求められる場所での、ばら撒き型センサの普及や、非耐久消費財(消耗品)のデバイス化といった新しいビジネスの創出に貢献できる可能性があります。
- 具体的には、農業における大規模露地栽培での水の最適化利用を目的とした土壌水分センサや、生態系、土壌などの環境モニタリング、洪水、汚染、気象などに関するイベント検出などが挙げられます。
解説図表
技術解説
- 従来電池には性能・安全性という指標しかなく、有害物質やレアメタルが使用されており、土壌や生物に対して問題がありました。そのため、新たに低環境負荷(無害・レアメタルフリー)な材料のみで構成された電池を提案しました。低環境負荷な材料には、土壌・生物等への影響が小さい、「肥料成分」「生物由来材料」から選定しています。電池の電極は、空気中の酸素が拡散できる3次元の導電性多孔体構造が必要です。従来の電極は、結着材により粉末状カーボンを固形化し構造を形成していますが、結着剤はフッ素系樹脂等であり、燃焼時には有害ガスの発生、また土壌等に含まれていない為、低環境負荷な材料とは言えません。その為、無害な結着材か、結着材フリーな電極が望ましく、今回、生物由来材料を熱処理することで作製した生物由来カーボンを適用することで、結着剤自体が無いカーボン電極を実現しました。
- 作製したツチニカエルでんち®は、市販の電池と比較して電池容量が約10分の1程度ではありますが、現時点でLEDランプを点灯させることを確認しています。(図2)
- また、電池が植物に与える影響を確認するために、肥料検定法に基づく植害試験(使用済み電池を粉砕し、土壌に混合。小松菜の発芽状態で評価)を行いました。その結果、本電池は、市販電池と異なり植物の成長に悪影響を与えないことを確認し、「土に還る」というコンセプトを実現することができました。(図3)
担当部署
NTT先端集積デバイス研究所 ソーシャルデバイス基盤研究部