技術入門
光伝送装置の標準規格とは(第1回)
NIC 光トランスポートシステムプロジェクト
高速リンクシステムグループ 永沼 友浩(ながぬま ともひろ)
#光伝送装置#標準規格
2026/3/23
はじめに
私たちが日常的に使用する工業製品においてはメーカーが異なっていても同じ部品やケーブルを共通的に使用することができる例が多く存在します。例えば、同じUSBケーブルを様々なパソコンで使用できたり、同じネジを様々な装置の固定に使用できたりします。これらはUSBケーブルやネジの形状や寸法、接続方法などの仕様が"標準規格"という形で明確に定められており、パソコンや装置がその標準規格に対応していることで実現されます。また、標準規格を策定する取り組みは"標準化活動"と呼ばれます。
標準規格は光伝送ネットワークの構築に用いられる伝送装置においても存在しており、標準規格に準拠した装置が複数のベンダからリリースされることで運用事業者は設備の低コスト化や調達性の向上といったメリットを享受することができます。また副次的な効果として、光伝送装置の標準規格を策定する際に世界中の装置ベンダや研究機関、通信事業者等が議論を行う過程で業界全体の技術水準が向上するという点も挙げられます。現在では標準化活動を通じて多様な伝送速度や距離等に対応した規格が策定され、それらに準拠した製品が現代社会の通信基盤を支えています。
本記事では光伝送装置に関する標準化活動を行っている主な団体とそれらの概要について紹介します。
光伝送装置に関する主な標準化団体
光伝送装置に関する標準化活動を行う主な団体について紹介します。
光伝送装置を開発するにあたり考慮すべき仕様項目は多岐にわたるため、各団体によって重点的に策定される領域は異なります。各団体の策定規格及び規格策定の目的について表1に示します。
主に光トランシーバ間の通信に用いるフレーム構成に関する規格を策定する団体として、イーサネット信号の物理層仕様やフレーム構成の標準化を行うIEEE、OTN信号のフレーム構成・OTN/WDMの物理層仕様の標準化を行うITU-Tが活動しています。これに対し、主に光伝送に関する規格を策定する団体として、光トランシーバの相互接続を実現するための光・電気インタフェース仕様の標準化を行うOIF、OIFで策定された規格を拡張しデータセンタ間や都市圏・地域網など中距離伝送を想定した光インタフェースの標準化を行うOpenZR+、ネットワークのマルチベンダ運用を実現するために光トランシーバやラインシステム、装置の設定・状態監視に用いる共通データモデル(YANG モデル)の標準化を行うOpenROADMといった団体が活動しています。
各標準化団体が策定する規格は国際標準(IEEE/ITU‑T)、Implementation Agreement(OIF)、MSA規格(OpenZR+、OpenROADM)といった名称で公開されます。また各規格の性質として、国際標準は長期的に使用される基盤となる仕様が規格されるのに対し、Implementation Agreementはベンダ間相互接続性を高めるため具体的な実装レベルの内容が策定されます。MSAも実装レベルの内容が策定される点は同様ですが、市場ニーズを素早く反映するため比較的短期間で合意されるといった特徴があります。
各標準規格の適用領域
各規格はいずれも光伝送装置に関連するものですが、策定される仕様項目に加え適用領域にも差分があります。
図1に光伝送ネットワークを構成する主な構成要素と対応する標準規格を示します。OIF/OpenZR+/IEEE/ITU-Tはいずれもトランシーバを対象とした規格である一方、OpenROADMはトランシーバ~ROADM~コントローラといった構成要素全体に係る規格を定義しています。またITU-TについてはWDM伝送時の周波数グリッド等の規格も併せて規定されています。
また、各規格を伝送距離の観点で整理すると図2のようになります。OIFは~120km程度のデータセンタネットワークを想定した400ZRや800ZRといった規格を策定している一方、OpenZR+はデータセンタに加え数百~1000km程度のメトロネットワークへの適用も視野に入れており、OpenROADMについてはメトロ~コアネットワークに係る規格です。またIEEE、ITU-Tについては特定の伝送距離に限定されず、物理層インタフェースやWDM伝送方式等について幅広いネットワーク形態への適用を前提とした汎用的な規格を策定しています。
各規格は伝送レートや伝送性能(例えば OSNR や受信感度)に関する条件には一部重複する仕様項目がある一方、前述の通り規格の適応領域に差分があることからそれぞれ独立した規格として存在しています。規格間の差分を示す一例として、400Gbpsの信号に関する主要な仕様項目の比較を表2に示します。ネットワークへ導入する装置を選定する際には、どのようなネットワークを構築したいかを明確化したうえで対応する規格を参照し、その規格に準拠した装置を選定することが必要となります。
おわりに
本記事では光伝送装置に関する標準規格を策定する主な団体及びそれらの概要について紹介しました。NICでは今回紹介したような標準規格の動向を注視しながら適用すべき技術の見極めを行い、All Photonic Networkの更なる高度化に向けた研究開発を進めていきます。また今後は各団体で策定されている規格の詳細についても紹介していく予定です。
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