技術入門

パワーアウェア動的配置制御技術:PADAC 第1回

NIC ネットワーク制御ソフトウェアプロジェクト

菅原 風子(すがわら ふうこ)

#サーバ省電力化#ソフトウェア制御#PADAC

2024/12/27

はじめに

ネットワークイノベーションセンタ ネットワーク制御ソフトウェアプロジェクトでは、インフラとしてのサーバシステムを支えるソフトウェア技術の研究開発に取り組んでいます。本記事では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)がめざすディスアグリゲーテッドコンピューティング*1の電力効率を最大化する研究開発、および既存サーバを省電力化するソフトウェア制御技術である、パワーアウェア動的配置制御(PADAC: Power Aware Dynamic Allocation Control)の概要について紹介します。

近年の課題とサーバ省電力化技術の必要性

近年IPトラフィックは指数関数的に増加しています。世界のIPトラフィックは2030年に現在の30倍以上、2050年に4,000倍に達すると予想されています(1)。一方で、それらを処理するサーバについては、CPU(Central Processing Unit)の性能の向上速度が鈍化しています。現在の計算負荷の増大傾向が将来にわたって継続すると仮定し、現状のサーバハードウェアの延長線上での電力効率で試算した場合、データセンタ運用に要する電力も2050年に2500倍以上に増大すると予想されています(2)。また、近年は現行システムのクラウド化に加え、AI・機械学習の需要が高まっています。これらのサービスの運用には大量の電力を必要とするため、データセンタの省電力化は喫緊の課題となっています。このように、サーバの省電力化・電力効率向上は将来のネットワーク運用に向けた重要な課題です。
加えて、NTTでは、IOWN構想を実現するために、新しいアーキテクチャであるディスアグリゲーテッドコンピューティングの研究に取り組んでいます。そのため我々は、新たなデバイスや処理方式が導入された環境において、従来のサーバハードウェアの限界を超えた電力性能の実現のために、効率的な制御方法の確立を目指しています。

PADACの概要

PADACは、サーバ基盤に対してソフトウェア制御を行うことにより消費電力を低減する技術です。また、PADACはサービス・アプリケーションの改造なしに、既存のサーバ基盤の追加システムとして動作することを基本コンセプトとしています。電力削減効果の拡大を進めつつ、複数のソフトウェア制御方式の中からそれぞれの環境に合わせた最適な制御方式を自動的に選択する技術の確立を目指しています。このようなソフトウェア制御は、導入コストが小さく様々な環境に容易に導入することが可能というメリットがあります。

CPUの省電力機能(C-state & P-state)

PADACの詳細に入る前に、CPUの省電力機能であるC-state と P-state について説明します。コンピュータの電源管理の標準規格であるACPI*2により、 C-stateとP-stateというCPUの省電力機能が定義されています。C-stateは、CPUのアイドル時の省電力モードを指します。ACPIでは "Processor power states (Cx states)" と呼ばれ、C0、C1、C2、C3......といった状態からなるCPUの電力消費及び温度制御状態を定義しています。"x" の数字が大きいほど消費電力の削減効果が大きく、同時に実行状態への復帰遅延が大きくなります。P-state は、ACPI では "Device and Processor performance states (Px states)" と呼ばれ、P0、P1......といった状態からなるアクティブな実行状態における電力消費と性能状態を定義しています。CPU の処理実行時の性能を意味しており、"x" の数字が大きいほど消費電力が抑えられますが、性能は低くなります。一般に、P-stateはCPUクロック周波数を意味することが多く、CPUクロック周波数を低下させることで電力消費を削減します。このように、C-state と P-stateは、省電力効果が期待できる一方、引き換えに処理遅延などの性能劣化を引き起こす可能性があります。

PADAC制御方式の詳細

PADACは、CPUを搭載する汎用サーバ、特に前項で説明したCPUの省電力機能を有効化しているサーバをターゲットとしています。また、アプリケーションについては、許容される処理遅延がミリ秒オーダの一般的なアプリケーションをターゲットとしています。

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図 PADACの構成概略図

PADACはVM (Virtual Machine)やコンテナといった仮想化システム群を、KubernetesやOpenStackといったリソースコントローラにより制御する構成を想定しています。このため、単一のサーバへ適用した場合にも省電力効果を得られますが、特に複数のサーバで運用される環境において高い効果を発揮します。
また、PADACは様々なアプローチで省電力制御を行います。これは、アプリケーションやハードウェアごとに適切な省電力化制御が異なるためであり、将来的には複数制御方式を自律的に選択することで汎用的に効果を発揮する技術の確立を目指しています。リソースコントローラの省電力制御では、前項で説明したCPUの省電力機能であるC-stateおよびP-stateの省電力効果を最大化し、かつ性能劣化を防ぐようにCPUコアの割り当てを最適化し、適切に制御する運用方式を検討しています。また、ハードウェア制御・OSの省電力制御では、コア周波数とは独立に制御可能であるアンコア*3の周波数を制御する技術などを、ロードバランサの省電力制御では、サーバに振り分けるトラヒックを制御してCPUの負荷を低減する技術などを、それぞれ検討中です。また、近年のAI・機械学習の需要の高まりにより、これらのサービスの運用に不可欠なGPUによる消費電力量が増大しています。そのため、サーバに搭載されているCPUだけでなく、GPUについても省電力化制御が可能か現在検討を進めています。これらの技術の詳細については、今後別の記事にて紹介いたします。

今後の展望

今後、深刻化が懸念されるITサービスが消費する電力増大の問題に対して、PADAC技術によりディスアグリゲーテッドコンピュータを効率的に制御することで解決を目指します。PADAC技術により、情報通信システムの主要な構成機器の一つであるサーバの電力効率向上を図り、クラウドデータセンタや電気通信設備など情報通信システムの電力消費量を削減し、社会課題である電力・エネルギー問題の解決を目指します。

脚注(用語解説)

*1 ディスアグリゲーテッドコンピューティング:IOWNを支える新しいアーキテクチャ。光電融合技術により、大容量・長距離・低消費電力化を実現し、物理構成・論理構成・制御方式を組み合わせて、これまでのコンピュータと異なる圧倒的な高い性能をねらう技術。
参考)https://journal.ntt.co.jp/article/13586

*2 ACPI:Advanced Configuration and Power Interfaceの略。コンピュータや周辺機器の電力管理の統一規格。
参考)https://uefi.org/specs/ACPI/6.5/

*3 アンコア:CPUパッケージ上のコア以外の部分。
参考)Intel Uncore Frequency Scaling
https://www.kernel.org/doc/html/v6.9/admin-guide/pm/intel_uncore_frequency_scaling.html

参考文献

(1) 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.1)(2024年11月16日閲覧)

(2) 情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)(2024年11月16日閲覧)

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