技術入門

ネットワークオペレーションの標準化とは

NIC ネットワークオペレーションプロジェクト

立石 直規(たていし なおき)

#ネットワーク#オペレーション#標準化

2024/9/9

1. はじめに

情報通信ネットワークに関する標準化の団体には何があるかと言われて、多くの方が頭に浮かべるものはISO(International Organization for Standardization)や、ITU(International Telecommunication Union)、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)、IETF(Internet Engineering Task Force)等があるかと思います。一方で、ネットワーク管理を主眼にした標準化団体としては TM Forum(以降 TMF) があります。

そしておそらく、この記事をご覧になる方のほとんどはTMFの存在をご存知なく、「ネットワーク管理を扱う標準化団体なるものがあるのか」と感じているのではないかと著者は想像しています。著者も、大学の頃に研究室のサーバ管理を少しだけしたことはありますが、弊研究所入社前はこうした団体があることを全く知りませんでした。また、企業の情報システムやネットワークの管理に携わられている方におかれても、日頃の業務においてTMFの知識とシステム・ネットワーク管理が密接に関連するシーンはないのだろうと予想しています。

本記事および関連記事では、ややもすると目立たないと感じられる「ネットワーク管理の標準化」について、なぜこうした標準が要されるのか、ネットワーク管理に関する標準とはなにか、他の標準と違う点はなにか、標準化の動向はどのような状況かについて触れて行きます。

2. ネットワーク管理のシステム化と「標準」の必要性

2024年6月24日の「ネットワークキャリアのオペレーションとは ~第1回 オペレーションの概要紹介~」の記事でも触れられていますが、通信サービスを提供するためにはお客様の申込に応じてサービスを開通させるための設定作業、障害が発生した場合に回復させるための保全作業など「付随する様々な作業:オペレーション」が必要となります。当初、こうしたオペレーションは手作業で実施されていました。
(6月24日の記事→ https://www.rd.ntt/ntc/article/0002.html

近年になると、様々なサービスを提供するため、ルータ等の転送装置だけでなく制御サーバなども加わりネットワークの構成の大規模・複雑化が進んできました。また、お客様からのサービス申し込みへの迅速な対応や、障害発生時の早期のお客様周知の実現などさらなる即応化への要望も高くなっています。こうした多様な管理対象に対する、難度の高い様々な業務を人手のみで円滑に行うことはもはや不可能となっています。このため多くのシステムを用い、それらの連携を促進することが重要となります。

ここで、業務のシステム化においては、通信事業者だけでなく様々なステークホルダのご協力が不可欠となります。たとえば、サーバ類や各種ソフトウェアはベンダ様から購入することとなります。その際には、既存の業務やシステム構成と整合する形で製品選定や設計・構築がなされることも重要です。申し込みを受ける販売代理店様や、現場の回線保守等に関わる通信建設会社様との業務に関する連携方法合わせも要されます。そうした一つ一つの営みにおいては、技術的要件や契約を都度細かく定めていくことになります。一方で同種の事業を営んでいるとしても、異なる複数の会社間では業務の流れや用語が異なりがちです。こうなると異なるステークホルダ間の連携を進めづらい状況が容易に生じます。

そのような状況を打破し、相互の理解を深めて連携を迅速化させ、新たな価値を創出し業界としての産業競争力向上を進めるため、これらステークホルダ間で業務の流れの全体像や個々の業務の配置、用語等を標準化することが志向されてきました。標準化されてきた内容については、次の章以降で触れていきます。

3. TM Forum およびテレコムマネジメントの標準「Frameworx」

このようにいろいろなステークホルダが通信サービスに関わっている中、その連携を円滑として通信サービスを安定かつ迅速に提供できるようにするため、国際団体であるTMFを中心として、ネットワークオペレーションの業務やデータ、システム等の体系に関わる標準化が進められてきました。

TMFは1988年6月にAT&TやBT・HP等の8社にて、非営利団体のOSI/NMフォーラムとして組織化されました。その後にNTTはもとよりVerizon、OrangeやNokia、Ericsson、さらにはGoogleやMicrosoft等の企業・団体が加入していき、現在は世界の主要な通信事業者・ベンダ850社以上が加盟する情報通信マネジメント分野で最大の国際標準化団体となっています。そこでは通信事業者が課題感の認識合わせを進め、そしてベンダも通信事業者の課題感に応えようとするなど、世界中の通信事業者・ベンダが連携して取り組みを進めています。

TMFの大きな成果の1つとして、ネットワークオペレーションシステムを構築するためのフレームワーク:Frameworx があります。Frameworx は情報サービス通信事業者向けの、デジタルサービスの実現に必要な参照モデルであり、標準的な業務プロセス(eTOM:enhanced Telecom Operations Map)・情報モデル(SID:The Information Framework)・アプリケーションフレームワーク(TAM:The Application Framework)等が2010年代までに規定されてきました。

TMFでは前述の通りSID, TAMなどの標準を定めていますが、これら標準の土台となっているものが業務プロセスの参照モデルeTOMとなっていることから、本記事ではeTOMの概要について触れることといたします。

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eTOMでは、通信事業者の業務を上図のような枠組みで整理しています。縦軸にはドメインが並んでおり、上部には市場や顧客を向いた対応、下部にはサプライチェーン(パートナ)やリソース(ネットワークの装置やサーバ等)を向いた対応等が定義されています。横軸には業務のカテゴリが並んでおり、左部の経営戦略策定にはじまり右部にはフルフィルメント(サービスの設計・構築)・アシュアランス(保全)・ビリング(課金)といった日頃の業務のカテゴリが並んでいます。さらに、それぞれの軸が交差する点において、各交点での業務の内容を1段、2段、3段...と細分化した配置の定義を進め、詳細の認識を合わせる営みが続けられています。

ここまでお読みになられるなかで、IEEEやIETF等で定義されている標準とは趣が違うと感じられた方もいらっしゃるかもしれません。IEEE等の標準では、デバイスやアプリケーションの相互の疎通および機能の実現が重要であることから、その構成要素となる通信プロトコルのメッセージフォーマットやシーケンスの詳細等を定めています。

一方でネットワーク管理についても、1970年代後半以降におけるコンピュータ間通信の相互接続性確保にむけOSI(Open Systems Interconnection)を作成する機運が高まった際に、プロトコルの標準を定める動きがありました。しかしその営みを進めていくなかで、通信事業者やベンダの間で業務や用語の認識が大きく異なっていることが明らかとなり、その合わせこそが重要でありオペレーション標準の目的と設定すべきであるとの議論がなされ、今に至っています。

4. 現在進められている取り組み

TMFでは机上の議論のみならず技術実証(Catalyst)もさかんに行われています。年数回行われるイベントでは展示の機会が設けられ、NTTはもとより数多くの通信事業者が共通の課題感を持ち、これに対してベンダが連携してその標準を実装することで具現化に取り組み、新たなビジネスモデルとともに標準化に資する技術力をアピールしています。こうした標準化や技術実証の取り組みを進めることで、通信事業者やベンダ等ステークホルダの目線合わせや共通の概念作りを推進し、通信事業者自体のビジネスはもとよりそのサービスを活用される多くの産業におけるビジネスの加速に貢献しようとしています。

6G等を見据えた先進的ネットワークサービスの創出や通信品質の向上、また日本国内における労働人口の減少・省力化への対処にむけては、ネットワーク運用の自律化が重要となります。この自律化を目指したProjectでは、ネットワークなどの管理対象の情報の収集・分析・最適化・実行といったオペレーションの自動化(Closed loop)の実現に向けて、自律ネットワークの進展度の物差し作りから始められています。図に示す通り、手動運用(レベル0)から完全自動化されたネットワーク(レベル5)まで6段階の定義が行われ、通信事業者やベンダの間でこの進展度に関する目線を合わせる営みが進められています。

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自動化においてはAIも重要な位置づけを占めることとなりますが、異常検知・解決に関するユースケースや、AIを活用した運用を展開するための方法やリスク低減、従来の運用方法とAIを土台とした運用方法のギャップ検討、AIが利用するデータの取扱い等についても議論が進められています。また、社会全体で生成AI活用が盛んになってきておりますが、通信事業者においてもClosed loopの実現に向けて、生成AIの適用検討や事例の共有などが進められています。

ネットワークイノベーションセンタ含むNTT研究所全体としても、下図のように異常パターンの生成や学習の推進による複雑/未知故障への対策や、個々の業務へのAI適用はもとより、AI間の連携強化推進によるネットワークの状況見える化・影響把握や最適制御を含むClosed loopの実現に向けて、研究開発をすすめています。TMFにおいては、世界の通信事業者やベンダにおける先進的な取り組みを収集・分析していく営みを進めていくとともに、取り組み内容を国際標準の要件に反映するための活動の取り組みも行っています。

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参考文献

(1) https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/0908/files/jn200908087.pdf

(2) https://journal.ntt.co.jp/article/13092

(3) https://www.ntt-review.jp/archive/ntttechnical.php?contents=ntr201601gls.pdf

(4) https://www.ieice-hbkb.org/portal/5群通信・放送/05_09/

(5) https://www.tta.or.jp/book/12008/

(6) https://www.ttc.or.jp/activities/sdt_text

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