映像品質評価法

1.映像品質の主観評価法

1.5.代表的な主観評価法

(1) ACR法 (Absolute Category Rating)

ITU-T勧告P.910で規定されるACR法は単一刺激法(Single Stimulus Method)とも呼ばれ、通信サービスの品質評価に最も広く用いられる評価法の1つです。図1.5.1に示すように、ACR法では評価者は10秒程度の評価映像を観視した後、続く10秒以内に表1.5.1に示す5段階品質尺度により評価を行います。評価結果は評価者の各カテゴリへの投票率を評点で重み付けした「平均オピニオン評点(MOS: Mean Opinion Score)」で表します。映像品質評価値がその前に観視した映像の品質に影響を受ける順序効果がある(非常に悪い品質の映像を観視した後に軽微な品質劣化の映像を観視すると良いと評価されたり、逆に非常に良い品質の映像を観視した後に軽微な品質劣化の映像を観視すると悪いと評価されたりする)ため、評価映像の提示順序をランダマイズして評価者毎に変化させたり、異なる提示順序で繰り返し評価するなどの対処が必要となります。

ACR法では品質評価基準が存在しないため、評価結果は実験で取り扱う評価映像の品質の変化範囲(評価実験の枠組み)に強く影響を受けます。そのため、異なる評価実験の結果を比較評価する際には注意が必要です。複数機関でACR法による評価を実施する際には、予め各機関で品質の変化範囲を統一する等の対処が施されています。

図1.5.1 ACR評価の流れ
図1.5.1 ACR評価の流れ

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表1.5.1 5段階品質尺度
評点 評定語
5 非常に良い(Excellent)
4 良い(Good)
3 普通(Fair)
2 悪い(Poor)
1 非常に悪い(Bad)

ここで、MOSによる品質指標例について説明します。ACR法で得られたMOS特性の例を図1.5.2に示します。MOS=3.5という値は、「3:普通」以上と評価する人の割合が約90%となります。逆に言うと、「2:悪い」以下と評価する人の割合は約10%となります。このため、MOS≧3.5を満足させるようにサービス品質を設計することにより、品質が悪いと感じる人を10%以下に抑えることができます。また、MOS=2.5という値は、「3:普通」以上と評価する人の割合が約50%、あるいは「2:悪い」以下と評価する人の割合が約50%となる値です。このMOS=2.5を「許容限」と呼ぶこともあります。

図1.5.2 ACR評価によるMOS特性例
図1.5.2 ACR評価によるMOS特性例

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