
NICの研究開発
AI活用によるネットワークキャリアのオペレーション高度化
~自己進化型ZTOフレームワーク~
NIC ネットワークオペレーションプロジェクト
広中 慎平(ひろなか しんぺい)
#オペレーション#AI#自己進化型ZTO
2025/4/16
はじめに
NTT研究所では、ネットワークキャリアのオペレーション※を自動化する自己進化型ゼロタッチオペレーション(ZTO)の実現を目指しています。(1)
その実現にむけ、NIC ネットワークオペレーションプロジェクトでは、オペレーションにおける監視・保守といった運用業務の自動化・高度化を実現するAI(NW-AI)の要素技術の研究と、研究成果であるNW-AIの実用化開発に取り組んでいます。
本記事では後者の取り組みである、「自己進化型ZTOフレームワーク」についてご紹介します。
※ネットワークキャリアのオペレーションについては、以下の記事にて詳しく紹介しておりますので、こちらもぜひご覧ください。
取り組みの背景と課題
NTTグループをはじめとした各ネットワークキャリアは、多種多様な通信サービスを提供しています。
これらの通信サービスは仕事や生活のあらゆる場面で利用されており、通信サービスの基盤となるネットワークは社会インフラの1つとなっています。
それに伴い、ネットワークの障害が発生した際に社会へ与える影響が大きな問題になってきています。
1つの例として、リモートワークやオンライン授業が挙げられます。
もし、ネットワークの障害が発生するとオンラインによる打ち合わせや授業の受講が出来なくなり、障害の影響エリアが広い場合や、障害時間が長時間化した場合、我々の生活に大きな影響を及ぼします。
このような大きな社会影響を最小限にするために、ネットワークの障害は迅速に復旧させる必要があります。
しかし、ネットワークは新たなサービスの提供に伴う新規ネットワーク装置の導入や、通信トラヒック量の増加に伴う装置増設による大規模化が行われているため、ネットワークの障害が複雑化しています。
そのため、人手での対応が長時間化してしまう、といった事例が各ネットワークキャリアで発生しています。
また、労働人口の減少に伴いネットワークの運用業務に精通しているベテラン人材も年々減っており、従来の人手による運用業務を継続し続けるのは困難な事も予測されます。
そのため、運用業務を自動化・高度化する事が重要な課題となっています。
自己進化型ZTOの取り組み
ネットワークオペレーションプロジェクトでは、ネットワークの運用業務に関する研究開発に取り組んでいます。
運用業務では、ネットワーク装置から発生する膨大なアラーム等を常に収集・監視しています。
その中から異常を検知した場合、内容を分析し、故障の原因を推定し、措置方法の検討および実行判断を経て、最終的に措置を実行し障害を復旧する、という一連のプロセスが行われます。
我々が取り組んでいる研究開発の1つとして、人手で実施している運用業務の自動化・高度化を実現するAI(NW-AI)があります。
最終的には、以下の特徴を持つ自己進化型ZTOの実現を目指しています(図1)。
1. 運用業務の異常検知~実行判断までの一連のプロセスを自動化
2. 様々な環境変化(新たな装置の追加やネットワークの構成変更等)にも自律的に追従

我々が所属しているNICでは、研究により新たな技術を創出するフェーズと、創出した技術を世の中で活用出来るように実用化開発するフェーズの両方を担っています。
どちらのフェーズにおいても、実際に技術を導入し活用する側のニーズや観点を意識しながら進めていく事が重要です。
NW-AIの研究についても、実際にネットワークを運用しているNTTグループ各社(NTTドコモやNTT東日本/西日本等)の運用部門と連携し取り組んでいましたが、運用業務への導入にむけて2つの課題があります。
1つ目の課題として、NW-AIをどのように運用業務へ組み込んでいけばよいのかがわからない、という点が挙げられます。
現状では、運用部門におけるNW-AI活用ノウハウや、AIに精通した人材はまだ少ないためです。
2つ目の課題として、運用部門ごとに適したNW-AIが異なる、という点が挙げられます。
運用対象のネットワークや提供している通信サービスによって運用の仕方は異なります。
そのため、ある運用部門では適用可能なNW-AIが、別の運用部門でも運用可能とは限りません。
そこで我々は、研究したNW-AIを世の中に出すアプローチとして、以下の特徴を持ったプロダクトの実用化開発に取り組んでいます。
自己進化型ZTOフレームワークの概要
運用業務に適した様々なNW-AIの着脱や連携機能を提供し、各社の環境に合わせてカスタマイズして導入可能とするプロダクトとして、自己進化型ZTOフレームワークの実用化開発を進めています。
2023年度に、初期開発プロダクトとなる自己進化型ZTOフレームワークSTEP1をリリースしました。
STEP1では、NW-AIを連携機能とともに提供することで、単体のNW-AIでは実現できなかったシナジー効果を創出し、複数のプロセスへ自動化範囲を拡大することで、導入効果を高めています。
提供しているNW-AI機能は、図1に示す運用業務の前半部分である異常検知から原因推定までの3つのプロセスの自動化を実現しています。
※各NW-AIの詳細については、後日別記事にて紹介予定です。
異常検知NW-AI
ネットワークを構成する装置から出力される通信状態に関するログやトラフィック量等の情報を用いて、通常の状態からの乖離度を分析することで、異常状態の早期検知を実現するNW-AI
アラーム集約NW-AI
短時間内の複数の故障によって混在しつつ発生した膨大なアラームを、故障毎に分類・集約することでアラームの分析を容易にしつつ短縮し、故障対応の迅速化や故障の見落とし防止を実現するNW-AI
原因推定NW-AI
事前に学習したネットワークの構成と故障時のアラームの関係性を用いて、アラームが発生した原因となる故障箇所を推定・提示し、保守者の判断・措置の迅速化を実現するNW-AI
また、自己進化型ZTOフレームワークでは、各NW-AIを連携する機能も提供しています。
例えば、図2(b)に示すアラーム集約NW-AIと原因推定NW-AIの連携では、アラーム集約NW-AIの出力を原因推定NW-AIに入力し故障箇所を推定します。
このように連携させることで、後段の原因推定NW-AIでは故障毎に分類・集約されたアラーム群単位で推定する事が出来るため、原因推定NW-AI単体の場合図2(a)と比較して、特に複数同時故障時において精度良く推定することが出来ます。

今後の展開
自己進化型ZTOフレームワークの導入を進めている運用部門と連携し、実際に運用して得られた知見を我々の研究にフィードバックしながら、NW-AIの改善や新たなNW- AIの創出を推進していきます。
さらには、昨今研究が盛んに行われている大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)を活用した新たなNW-AIの組み込みも予定しています。
具体的には、過去の故障措置履歴を元に現在発生している故障に対する具体的な措置方法を提示するNW-AIや、提示された措置方法の根拠情報を抽出することで運用者の措置判断を支援するNW-AI等の研究に取り組んでいます。
今後も、研究により生み出した技術を実用化開発し、実際に活用して得られた知見を取り入れながらより良い技術を生み出す、という研究開発サイクルを段階的に回してくことで、自己進化型ZTOの実現にむけ取り組んでいきます。
技術の導入先と二人三脚で研究開発に取り組み、世の中で活躍する技術を生み出すことで、ネットワークキャリアにおけるオペレーションの高度化に貢献していきます。
参考文献
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