デジタルツインコンピューティング構想をパートナーとともに具現化するために
リファレンスドキュメント公開の目的と概要

デジタルトランスフォーメーションによるスマートな社会の実現をめざし、あらゆる情報処理基盤に光電融合の革新的な技術を取り込み、新しいコミュニケーション基盤の実現をめざすIOWN構想。これを叶えるための三要素がオールフォトニクス・ネットワーク、コグニティブ・ファウンデーション、デジタルツインコンピューティングです。

その中の一つ、デジタルツインコンピューティング(Digital Twin Computing、以下DTC)は、まずその構想の概要を伝えるため、2019年にコンセプトや特長、想定されるユースケースなどを記した「ホワイトペーパー」が公開され(現在はバージョン2.0として更新)、わかりやすく解説されています。その後、2020年3月にはNTTデジタルツインコンピューティング研究センタが立ち上がり、現在は専門分野のパートナーなども加え、具体的な議論を行う段階に入っています。
今回は、2020年9月30日に発表されたDTCリファレンスモデル(バージョン1.0/英文)公開の目的とその概要について第1章を中心に紹介します。

DTCリファレンスモデル公開の目的

IoT(Internet of Things)の発達とともに広がってきた従来のデジタルツインは、設計や製造、自動運転などの分野で活用されています。仮想空間にモノの形状や状態、機能などをそっくり写像してデジタルの双子(デジタルツイン)として再現することで、シミュレーションや分析に使われています。例を挙げれば複雑な飛行機のエンジン設計や、製造現場におけるロボットの制御、近年では自動運転のアルゴリズム制御にもデジタルツインが役立っています。

わたしたちが提唱するDTC構想は、従来のデジタルツインの概念を発展させて、多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、都市におけるヒトと自動車など、これまで総合的に扱うことができなかった組合せを高精度に再現し、さらに未来の予測が可能となる世界をめざしています。

ここでのポイントは、DTC構想は具体的な技術として提示されるものではなく、新たなデジタル社会の実現に向けた構想であるということです。技術を積み上げていく従来の手法とはそこが大きく異なります。DTC構想実現のためには、世界中のあらゆる分野のパートナーが必要とされます。そのためのDTC構想を進めるためのコラボレーションフレームワーク、つまりコンセプトや要件を「ホワイトペーパー」からより具体化させ定義し明確化したもの、それがDTCリファレンスモデルです。

DTCのビジョン、DTC構想におけるデジタルツインの定義

図1 DTCのビジョン
図1 DTCのビジョン

DTCリファレンスモデルの第1章・冒頭では、まずDTCのビジョンについて述べています。DTCには、三つの特徴があります。すなわち、「さまざまなタイプのデジタルツイン間の相互運用性」、「サイバー空間におけるシミュレーション」、そして「デジタルツインのデータを交換、融合、複製する操作」です(図1)。

現在、デジタルツインの広く認知された定義はありませんが、DTC構想を実現するためには、この定義を明確にする必要があります。これまでに提案された様々なデジタルツインの共通特性としては、2つに要約できます。「デジタルツインは実世界の実体またはシステムをデジタル表現したものであること」および「デジタルツインは物理世界と仮想世界の間でデータをシームレスに伝送するもの」であることです。

図2 DTCにおけるデジタルツイン定義の必要性
図2 DTCにおけるデジタルツイン定義の必要性
(※リファレンスドキュメントの<Missing definition of digital twin in the DTC>を和訳)

デジタルツインを活用した将来のサービスでは、異なるベンダーが製造したデジタルツインのデータを相互に利用しあう可能性があります。これはDTC構想でも同様です。デジタルツインをDTC構想に取り込むにあたり、これまでの研究では、デジタルツインの重要な側面であるデジタルツイン間の「相互作用」の概念が欠落していることが分かりました。DTC構想では、様々なタイプのデジタルツインを組み合わせて仮想社会を作るため、仮想社会を構成するデジタルツイン間の多様な相互作用が必要になります。そこで、わたしたちは、DTC構想を実現するために求められるデジタルツインとは何かを定義し、それをDTCリファレンスモデルに取り入れました(図2)。

DTCリファレンスモデルでは、デジタルツインの定義に加えて、開発者、サービス提供者、および標準化組織によって共通的に参照されるべきデジタルツインの技術的側面を明確にするため、DTCにおいてデジタルツインが持つべき構造、機能、および要件を提供しています。これはDTCにおけるひとつの仮説であり、わたしたちは、この提案に関する建設的なコメントや議論を歓迎し、DTC構想を推進しより深化させていきたいと考えています。

DTCの4層アーキテクチャ

図3 DTCの4層アーキテクチャ
図3 DTCの4層アーキテクチャ
(※リファレンスドキュメントの<DTC's four-layered architecture>を和訳)

DTCホワイトペーパーでは、4層のアーキテクチャが描かれています(図3)。このアーキテクチャの概略をDTCリファレンスモデルでは説明しています。
第1層は、サイバーフィジカルインタラクション層です。この層は、実世界の人間や物体をセンシングしてデジタルツインを生成するために必要なデータを収集する機能と、仮想社会における試行と制御の結果を実世界にフィードバックする機能を提供します。これらの機能は、カメラ、光検出器、LiDAR、仮想現実 (VR) /拡張現実 (AR) 向けのヘッドマウントディスプレイ、機械学習プログラムのような、さまざまなタイプのデバイスおよびアルゴリズムによって実現されます。

第2層は、デジタルツイン層です。この層は、デジタルツインを作成するために使用可能な収集されたデータおよびモデルを記憶し、そのデータおよび特性に基づいてデジタルツインを検索、更新、および削除する機能を提供します。これらのデジタルツインは、対応する実世界のオブジェクトにおける、常にアップデートされた情報です。デジタルツイン層に格納されたデジタルツインは、オブジェクト、コンピュータ、またはヒトといった各々のデジタルツインの表すテンプレートの集合体である場合もあります。

第3層は、デジタルワールドプレゼンテーション層です。デジタルツイン層に格納されているデジタルツインはここで統合され、この層で構築される仮想社会の中で、相互作用することができます。仮想社会は、所望の時間枠、場所、および環境におけるデジタルツイン間の相互作用をシミュレートするために、交通環境、都市空間、およびオフィスなどの特定の目的のために作成することができます。また、この層では、もともとのデジタルツインに対してDTC特有の操作によって変更を加えられた形状、材質、動作などの属性を持つ、派生デジタルツインが作成されます(デジタルツインの複製、融合、交換)。

第4層は、アプリケーション層です。この層は、デジタルワールドプレゼンテーション層を使用してアプリケーションを実装および実行することを可能にします。この層では、さまざまなタイプのアプリケーションが実行されることが予想されます。

今回のDTCリファレンスモデルでは、第2層のデジタルツイン層と第3層のデジタルワールドプレゼンテーション層が主要な言及領域になっています。各層の基本的な構成、必要な機能、および関連する要件について2章以降で説明する構成を採っています。

他の主要な論点について

以下、2章以降の主要な論点を紹介します。2章では「デジタルツインの概念構造」を取り扱っています。ここでは、モノのデジタルツインだけでなく、ヒトのデジタルツインも統一的に扱えるように一般的なデジタルツインの構造を仮定しています。

デジタルツインを構成する情報要素を「知的」、「社会的」、「物理的」の3種類の情報が含まれていると仮定し、さらにこれらの情報は「data」、「process」、「interface」から構成されるとしています。
「data」には、知的情報、社会的情報、物理的情報の属性や変数が含まれます。「process」は、特にロボット、生物およびヒトの場合に、思考および自律的決定を含む行動モデルなどの、デジタルツインの行動を定義したものです。「interface」は、デジタルツインと、他のデジタルツインおよび実在の利用者を含む他のエンティティとの間のインターフェースです。この「data」、「process」、「interface」が、デジタルツインの概念を構成する基本的な要素であると考えます。

また、「プリミティブ」と「コンプレックス」という2種類のデジタルツイン構造の概念を導入しています。プリミティブとは、部分要素を持たないデジタルツインの基本要素です。プリミティブは、知的、社会的、物理的な情報を含む、最小単位となるデジタルツインです。一方、コンプレックスは、部分要素としてプリミティブやその他のコンプレックスを持ちうる構成物です。コンプレックスには、機械、建物、人間といった、複雑な特徴を持つデジタルツインがあります。プリミティブの適切な単位は何にするべきか?これは非常に難しい問題ですが、基本的な指針として、プリミティブをデジタツイン間の相互作用を観察するのに適した粒度にするという考え方を採りました。

パートナー連携を通じた完成をめざす

図4 DTCリファレンスモデルの主なスコープ
図4 DTCリファレンスモデルの主なスコープ

3章以降では、DTC構想にそって実現される仮想社会の要素として、「空間と時間を含む仮想社会の枠組みにおける物理オブジェクトのデジタルツイン」(3章)、「ヒトのデジタルツイン」(4章)について考察しています。3章ではデジタルツイン間の「相互作用」の詳細、4章では実世界におけるヒトの物理的および心理的状態の変化または制御する際の倫理的問題についても考察しています。

現在のDTCリファレンスモデル(バージョン1.0)は完成形ではありません。今回の公開後(2020年9月30日)、さまざまなパートナーからの提言や積極的な議論を通じてリファレンスモデルを更新し、完成をめざしていきたいと考えています。

参照

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