デジタルツインコンピューティングとはなにか

IOWN構想とデジタルツインコンピューティングの概要

近未来のスマートな世界を支えるコミュニケーション基盤「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」。現在2030年頃の実現を目指し、研究開発が進められています。当特集の第1回連載「IOWN構想とは? その社会的背景と目的」でご紹介した通り、IOWNは次の3つの主要技術分野から構成されています。

図1 IOWN構想の機能構成イメージ
図1 IOWN構想の機能構成イメージ
図1 IOWN構想の機能構成イメージ

今回は上記のなかのデジタルツインコンピューティングについて解説していきます。デジタルツインコンピューティングは、ネットワークから端末までフォトニクス(光)ベースの技術を導入したオールフォトニクス・ネットワーク、あらゆるICTリソースを最適に制御するコグニティブ・ファウンデーションをベースに、<新しいサービス、アプリケーションの世界>をめざしています。それでは、デジタルツインコンピューティングがつくりだす世界像を見ていきましょう。

ヒトと社会のデシタル化世界を創造する

図2 デジタルツインコンピューティング構想
図2 デジタルツインコンピューティング構想

近年、デジタルツインという言葉がよく使われています。ツインとは双子のことで、モノやヒトをデジタル表現することによって、現実世界(リアル)のツイン(双子)をデジタル上に構築することを意味します。

従来のデジタルツインの枠組みは、例えば自動車やロボットなどに代表される実世界の個々の対象をサイバー空間上に写像し、それに対して分析・予測などを行うものでした。また、その分析・予測などの結果を実世界に逆写像することで活用してきました。

NTTが提唱するデジタルツインコンピューティングでは、従来のデジタルツインの概念を発展させて、多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、都市におけるヒトと自動車など、これまで総合的に扱うことができなかった組合せを高精度に再現し、さらに未来の予測ができるようになります。

また、実世界の物理的な再現を超えた、ヒトの内面をも含む相互作用をサイバー空間上で実現することを可能とする新たな計算パラダイムを目指しています。これは、多様なデジタルツインから成る仮想社会をサイバー空間に構成したり、実世界では単一である実体のデジタルツインをサイバー空間上で複製し、あるいは、異なるデジタルツイン間で構成要素の一部を交換、融合し、実空間には存在しないデジタルツインの生成を可能にするという挑戦です。これは一方で、相互の互換性がなく、いわゆるサイロ化した従来からのデジタルツインをシームレスに連携させることも意味しています。

図2 デジタルツインコンピューティング構想

ヒトとモノのデジタル化を交互に繰り返してきた歴史

図3 モノ、ヒトに関するデジタル化の進展
図3 モノ、ヒトに関するデジタル化の進展

ここでモノとヒトに関するデジタル化について、最近の30年から40年の歴史を振り返ってみます。1985年ころに電子メールが登場し、コミュニケーションに使われ始めました。このことは、ヒトを中心にしたデジタル化の発展ととらえることができます。

その後、1995年ごろよりインターネットが登場し、同時に商品、時刻表、地図のような生活やサービスの向上に直結するモノ情報のデジタル化が加速します。次に2005年ごろよりSNSによるヒトの新たなコミュニケーションの時代が到来しました。

そして現在は2015年ごろから始まった、IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)によるモノのデジタル化の時代です。このようにデジタル化の近年の歴史を振り返ると、私たちはヒトとモノのデジタル化を交互に繰り返してきたととらえることが可能です。

このような繰り返しから、また最近のデジタルツインの導入が進むIoTの発展状況をみると、今後は、おそらく再度ヒトのデジタル化の順番が到来するものと考えています。また、重要なのは、価値というのは直線・比例的に増加するのでなく、あるところで爆発・非連続的に増える傾向にあるということです。そろそろ、その「時」がやってくるのではないかという予測をしています。

図3 モノ、ヒトに関するデジタル化の進展

ヒトの意識や思考をデジタル表現する挑戦

デジタルツインコンピューティングの大きな特長として、ヒト、特に個人の内面のデジタル表現に挑戦することがあげられます。ヒトの外面だけでなく内面、例えば意識や思考を表現することによって、ヒトの行動やコミュニケーションなどの社会的側面についても高度な相互作用を行うことができると考えています。

また、ヒトそれぞれの個性を表現することで、平均値として統計データ化された無個性な個体間の相互作用ではなく、個々人の特徴を踏まえた多様性に基づく相互作用が可能となるでしょう。

これらの特長により、多様なモノやヒトどうしが、実世界の制約を超えて高度な相互作用を行える仮想社会を創生できると考えています。

ヒトの内面をデジタル表現する2つのアプローチ

図4 ヒトのデジタル表現と2つの主なアプローチ
図4 ヒトのデジタル表現と2つの主なアプローチ

デジタルツインコンピューティングにおけるヒトのデジタル表現は、ヒトの外面に関する表現だけでなく、意識や思考といった内面のデジタル表現を可能にすることが重要です。

この難しい目標を達成する手段として大きく2つのアプローチがあると考えています。1番目の方法は計算機を用いて私たち人間の能力を模倣し、それを繰り返しながら「より人間に近づけていく」方法です。例えば音や声を認識する技術や会話によりコミュニケーションする技術がこの方法で進展している代表例です。

2番目の方法はいわば究極的な方法で、私たち人の脳や身体を生理学的に解明し、その結果を計算機に転写する手法です。近年脳神経科学を代表するこの分野は大きく進展しており、工学的に利用可能な研究成果も生まれています。私たちはこれら2つのアプローチのそれぞれ優れた部分を利用し、ヒトのデジタル化の目標に向かうことを考えています。

図4 ヒトのデジタル表現と2つの主なアプローチ

より人間に近づけていくテクノロジー

図5 ヒトのデジタル化〜音声からのアプローチの進展〜
図5 ヒトのデジタル化〜音声からのアプローチの進展〜

次に、NTTの研究所がこれまで取り組んできたひとつめの<より人間に近づけていく>アプローチについての関連技術を紹介します。

  • 音声認識
    聞く技術としては、ヒトの声をいかに精度良く認識するか、というもので半世紀にわたって研究を進めてきました。2010年ごろからはヒトの自然な発話を精度良く認識できるようになり、コンタクトセンタでの活用が進んでいます。現在では、最新のニューラルネットワークの導入により、いよいよヒトの音声認識の能力に近づいています。
  • 音声合成
    発話する技術は、どれだけヒトの声らしく自然な音声に変換するかが課題です。 これには文脈に沿って漢字の読み方を判別するテキスト解析処理や声の高低・スピードを適切に付与して音声信号を合成する処理などが含まれます。現在では、話者の音声データからディープラーニングによって自然かつ多様で、肉声感のある声の合成を実現しています。
  • 感情・意図の理解
    現在では、声の大きさや高さだけでなく会話のリズムや言葉遣いなどの情報から、一般には推定が困難なコールドアンガー(静かで冷静な怒り方)の検知や、不満よりも特徴が現れにくい満足感情の高精度な認識まで可能にしています。
図5 ヒトのデジタル化〜音声からのアプローチの進展〜

レイヤ構造と“砂時計”構造

図6 発展の梃子:「レイヤ構造」×「砂時計」
図6 発展の梃子:「レイヤ構造」×「砂時計」

デジタルツインコンピューティングのテクノロジーやアーキテクチャの構築していくうえで、レイヤ構造の中間に「共通層」を設ける“砂時計”の構造を追加できるか、ということが重要になります。

インターネットにおけるIP層のように、「共通層」に据えることで下部のネットワーク層と上部のアプリケーション層がうまく融合して機能することが可能となります。この共通層である、くびれの部分はデジタルツインコンピューティングのアーキテクチャにおけるデジタルツイン層が担うことになります。

このデジタルツイン層は、実空間からさまざまにセンシングしたデータから生成されるデジタルツインや、デジタルツイン間の演算を通して生成される派生デジタルツインを保持します。これらの保持されたデジタルツインが、さまざまな仮想社会を構築するための基本的な構成要素になります。

図6 発展の梃子:「レイヤ構造」×「砂時計」

デジタルツインの掛け合わせによる価値爆発に向けて

今後、社会科学、人文科学などを含めた幅広い学際的なパートナーとともに、デジタルツインコンピューティングを真に有用なものにしていこうと考えています。さらに、構想実現に向けては、多様な産業界とのコラボレーションも重要です。今後、パートナーを開拓し多くの知恵を集め、よりスマートな世界を実現する未来を切り拓いていきます。

※当稿は「NTT R&Dフォーラム2019 特別セッション/ヒトと社会のデジタル化世界 ─ デジタルツインコンピューティング ─」から抜粋・再構成したものです。

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