「NTT R&Dフォーラム — Road to IOWN 2021」 開催報告

2021年11月16〜19日の4日間にわたり、オンラインにて
「NTT R&Dフォーラム — Road to IOWN 2021」を開催しました。
ここでは本フォーラムの開催模様を紹介します。

フォーラム概要

「NTT R&Dフォーラム」では、毎年NTT研究所の最新の取り組みについて紹介しています。今回は、「Road to IOWN 2021」をコンセプトとして、6つのカテゴリに分け97件の展示を行ったほか、10件の講演/セミナーを配信し、NTTグループトータルで取り組んでいるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の「今」を分かりやすく紹介しました。

基調講演・特別セッション

基調講演1 テーマ:What is IOWN? 澤田 純 NTT 代表取締役社長

澤田純NTT代表取締役社長が「What is IOWN?」のテーマで講演を行いました。まず自然災害やパンデミックなど、従来の自然主義では想定外な事態が起こる中にあって「環世界」の考え方が必要であること、そして「多様な環世界をつなぐメディア」としてのIOWNの存在意義を提示しました。IOWNのユースケースとして、インターネットとテクノロジにより障がいを持った方々に働く場所を提供する「分身ロボットカフェDAWN」など3つの実証実験を紹介しました。また、光電融合デバイスにおいては2025年までにチップ間、2030年までにチップ間・チップ内ともに光素材で構成することをめざすなど、2030年度までのIOWN導入・研究開発ロードマップを示しました。さらに、事業活動による環境負荷の削減と限界打破のイノベーション創出により、「環境課題の解決」と「経済成長」という矛盾したものを同時実現するNTTグループの新たな環境エネルギービジョン 「NTT Green Innovation toward 2040」を紹介しました。NTTグループの理念として利他的共存をめざす「Self as We」を掲げ、今後は持続可能な社会の実現に向けて「自然(地球)との共生」「文化(集団・社会~国)の共栄」「Well-beingの最大化」の3つのテーマで活動していくことを宣言しました。

基調講演2 テーマ:Road to IOWN 2021 川添 雄彦 NTT 常務執行役員 研究企画部門長

川添雄彦NTT常務執行役員 研究企画部門長は「Road to IOWN 2021」のテーマで講演を行いました。NTTの1研究所による光トランジスタの発明から始まったIOWN構想は、今やNTTグループ全体にとどまらず全世界の営みへと広がっています。講演では、2019年5月に発表し3年目を迎えたIOWN構想を構成する技術開発の進捗を報告するとともに、代表的な15のイノベーション技術を紹介しました。また、IOWN Global Forumのメンバー数が2年弱でおよそ80社まで増加したこと、IOWNの実現へ向けた研究開発を加速するために2021年7月1日にNTT IOWN総合イノベーションセンタを設立したこと、各分野における著名な経営者、研究者が在籍するNTT R&Dオーソリティーチームを組織することなども合わせて報告しました。

特別セッション1 IOWN構想の実現に向けて~NTT研究所の新たなトップが語る、R&Dのチャレンジ~

川島正久IOWN推進室 室長がモデレータを務め、新体制のトップ2名とともに「IOWN構想の実現に向けて ~NTT研究所の新たなトップが語る、R&Dのチャレンジ~」と題したディスカッションを行いました。IOWNのコアテクノロジの具現化を担うため2021年7月に発足したNTT IOWN総合イノベーションセンタの塚野英博センタ長は、サプライヤー側である富士通の出身。また、デジタルツインコンピューティング(DTC)を活用してすべての人が「Well-being」に暮らせる社会をつくることをめざすNTTサービスイノベーション総合研究所の大野友義所長は、NTTドコモのR&D部門においてサービス創出に携わってきました。本セッションでは、IOWNを活用してどのように市場をつくっていくか、今後どのような活動をどう進めていくか、といった課題について意見が交わされました。「グローバルなベンダがIOWNに参画するには何が必要か」という問いに対し、塚野センタ長はIOWN Global Forumによる標準化の重要性を、大野所長は共にサービスを創造するパートナーの重要性を挙げました。

特別セッション2 IOWN Global Forum and its Initiatives Toward 2030

IOWN Global Forumのメンバーによるセッションは「IOWN Global Forum and its Initiatives Toward 2030」というテーマで行いました。Marketing Steering Committee バイスチェアを務めるGonzalo Camarillo氏をモデレータとして、同じくIOWN Global Forum のメンバーでTechnology Steering Committee チェアのClara Li氏、All Photonics Network検討に関するアクティブメンバーのPhilippe Chanclou氏、Use Case Working Group チェアの伊東克俊氏、Technology Working Group チェアの川島正久IOWN推進室 室長の4名が参加しました。「IOWN Global Forumと他の標準化団体とのかかわり」や「IOWNがもたらす社会的なメリット」などのテーマについて、各パネリストが自身の専門領域における現状と課題を語りました。IOWNがもたらす社会的なメリットについては、川島室長はエネルギー効率への貢献を、伊東氏はモデリングによる業務効率の向上を、Clara Li氏はDCI(Data Centric Infrastructure:データセントリックインフラストラクチャ)の構築によるエネルギー効率および持続可能性への貢献をあげました。

技術セミナー

「技術セミナー」では、NTTが現在取り組んでいる最先端の研究成果の紹介や、ゲストの方を招いたディスカッションの様子を配信しました。今回は「農業へのICT技術応用と未来への展望」「情報流通の「壁」の克服 ~あらゆる相手と、あらゆるデータを、安全に取引可能に~」「人のように考え、成長できるAIが切り拓く世界 ~次世代メディア処理AI『MediaGnosis™』 ~」「リアルとサイバー空間の交錯による新たなユーザ体験」「ブルーカーボン技術が拓く人と地球の新しい関係」「光格子時計ネットワークが切り拓く未来」の6つのテーマでセミナーが配信されました。ここでは、それぞれの概要を紹介します。

技術セミナー1 農業へのICT技術応用と未来への展望

MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストにネイバーズファーム代表の川名桂氏を迎え、NTTネットワークサービスシステム研究所の山本浩司主幹研究員により「農業へのICT技術応用と未来への展望」と題して開講されました。NTTグループの社会的課題解決に向けた6つの重点項目の1つである「Smart Agri」について、今回はその中の「ネットワークと農業の環境」というテーマを取り上げました。セミナーでは現在北海道大学との共同研究中のレベル3のロボット農機について、可用性の向上、多層的な安全対策、汎用プラットフォーム開発などの取り組みが紹介されました。2018年に開始された都市農地貸借法による新規就農者第1号として都内で農園を営まれている川名氏は、「私が現役のうちにかなりのレベルまで自動化が実装されるのではないか、また私たちに続く世代では農業が魅力ある産業へと成長するのではないか」と述べ、期待をふくらませました。

技術セミナー2 情報流通の「壁」の克服~あらゆる相手と,あらゆるデータを,安全に取引可能に~

本セミナーは、MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストに越塚登 東京大学大学院 情報学環 教授を迎え、NTT社会情報研究所 横関大子郎主席研究員により「情報流通の「壁」の克服 ~あらゆる相手と、あらゆるデータを、安全に取引可能に~」と題して開講されました。越塚教授はDSA(Data Society Alliance:一般社団法人データ社会推進協議会)を設立し、政府、産業会、NTTなども交えて「データを自由に流通する環境の構築」に取り組んでいます。セミナーでは、情報流通に立ちはだかる壁を越え、最小限の情報を最小限の相手に、しかも暗号化したまま提供し共有することのできる「クロスドメイン情報流通をめざしたトラステッドデータスペース」の概念が紹介され、さらに土台となる「高機能暗号」「秘密計算AI」「次世代データハブ」の3つの要素技術について、それぞれの専門の技術者から説明がありました。

技術セミナー3 人のように考え、成長できるAIが切り拓く世界 ~ 次世代メディア処理AI『MediaGnosis™』 ~

MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストにタレントの中村静香氏を招いて、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の草地良規主幹研究員、増村亮特別研究員により「人のように考え、成長できるAIが切り拓く世界 ~次世代メディア処理AI『MediaGnosis™』~」と題して実施されました。セミナーでは、まずヒトのように考え、そして成長できるAIの例として、誰もが持っている「魅力的な個性」の発見を助ける「MOTESSENSE™」をゲストの中村氏が体験。自身のモテ因子が「感情」であると指摘され、きめ細かく診断されていることに驚いている様子でした。その後、MOTESSENSE™にも活用されている、あらゆるメディア情報を人間のように統合的にGnosis(知識)とし、それを元にDiagnosis(判断)することをめざす「MediaGnosis™」の概要について紹介がありました。

技術セミナー4 リアルとサイバー空間の交錯による新たなユーザ体験

本セミナーは、MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストにハコスコ代表取締役社長の藤井直敬氏、株式会社ACCESS CTOの植松理昌氏を迎え、NTT人間情報研究所の深津真二主幹研究員、NTT研究企画部門の八木毅担当部長により「リアルとサイバー空間の交錯による新たなユーザ体験」と題して開講されました。低消費電力、広帯域、低遅延が実現すると、ユーザはすべての情報を受け取り、その中から自分の意図に応じて自由に情報を取捨選択することが可能となります。セミナーでは、IOWN時代においてUI(User Interface)、UX(User Experience)はどうあるべきか、そして4Dデジタル基盤®等によりリアルとサイバー空間が交錯すると、ユーザ体験はどうあるべきかなどについて、UI、UXの専門家である各参加者によりディスカッションが行われました。

技術セミナー5 ブルーカーボン技術が拓く人と地球の新しい関係

本セミナーは、MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストにサンゴの養殖・移植に取り組む有限会社海の種 代表取締役の金城浩二氏、そして岸壁幼魚採集家の株式会社カリブ・コラボレーション代表取締役社長の鈴木香里武氏を迎え、NTT宇宙環境エネルギー研究所の岡崎勝彦主幹研究員により「ブルーカーボン技術が拓く人と地球の新しい関係」というテーマで開講されました。宇宙視点で環境エネルギー問題に取り組むNTT宇宙環境エネルギー研究所が中心となり、今回は「ブルーカーボン」をキーワードとしてCO2問題を取り上げました。地球全体の生態系に取り込まれる炭素のうち、海洋の生態系に取り込まれるものをブルーカーボンと呼び、浅海において実に地球上で吸収されるCO2の35%を占めていることが知られています。セミナーでは、京都大学発のベンチャー企業のリージョナルフィッシュ株式会社とNTTが共同で行っている研究が紹介され、活発なディスカッションが行われました。

技術セミナー6 光格子時計ネットワークが切り拓く未来

本セミナーは、MCにタレントのハリー杉山氏、ゲストには東京大学大学院 工学系研究科の香取秀俊教授、国立研究開発法人情報通信研究機構 電磁波研究所電磁波標準研究センター 時空標準研究室の井戸哲也室長を迎え、NTT物性科学基礎研究所の赤塚友哉主任研究員、NTTネットワークサービスシステム研究所の新井薫研究主任により「光格子時計ネットワークが切り拓く未来」と題して開講されました。ゲストの香取教授が2001年に考案した光格子時計について、NTTでは現在、冷却用レーザを原子に当てるまでのパスを平面光波回路というチップにすることで小型化に取り組んでいること、そして、精密な光格子時計を全国に配置し、それをNTTの光ファイバ網でつなぐ時空間情報インフラ「光格子時計ネットワーク」構想が紹介されました。セミナーでは光格子時計の原理を解説するとともに、「相対性理論にもとづく標高差測定や時刻同期」などの応用範囲が挙げられました。

研究成果展示

NTTの最新技術、研究成果を6つのカテゴリに分けてバーチャルの展示ブースで紹介しました。
その中から、特に注目された研究を以下にピックアップしてレポートします。

ネットワーク RISによる端末追従の制御技術

「ネットワーク」カテゴリでは、IOWNの光/無線ネットワーク技術とその高度な制御・運用技術の数々を紹介しました。「End-Endの快適品質を実現するエクストリームNaaS」の展示では、変動する無線環境に応じたアナログRoF(Radio over Fiber)、RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)といった方式非依存の無線技術によりパフォーマンスを最適化し、さらに光ネットワークやアプリレイヤなど無線以外のシステムをも横断してトータルで最適化する技術を紹介しました。また、「多様な光パスを提供するAPNトランスポート構成技術」の展示では、お客さま拠点を含む任意の2地点間を光パスによってオンデマンドで直結する技術や、ドメインをまたいだ端末間をE2Eの光パスでつなぐ低遅延サービスの技術などが紹介されました。

UX/UI・デバイス IOWNがつくりだす新しいUI/UX

「UX/UI・デバイス」カテゴリでは、実世界とサイバー世界とをシームレスにつなぎ、身体的・心理的・社会的インタラクションを通して人の能力を最大化する技術を紹介しました。「パーソナライズドサウンドゾーン」の展示では、周囲の音空間を高度に制御することで、ユーザに適した音空間をつくり出すための研究を展示し、周囲音を遮断する騒音制御技術、必要な音を聞き取るイベント検知・定位技術などを紹介しました。また、「IOWNが創りだす新しいUI/UX」の展示では、現実空間とサイバー空間とを融合することで、多様な受け手(健常者、障がい者、生物、機械)の価値に応じた体験を実現する技術を紹介しました。過去の時空間を構築して追体験する、生活音を可視化して耳の聞こえづらい人にも過ごしやすさを提供する、などのユースケースを示しました。

セキュリティ 量子計算機時代のセキュア光トランスポート技術

「セキュリティ」カテゴリでは、Smart Worldの実現や多様な社会価値の創出に向けて、IOWNならではの特長を活かした新しいセキュリティを実現する各種技術を紹介しました。「量子計算機時代のセキュア光トランスポート技術」の展示では、IOWNのセキュリティを支える、量子計算機を用いても解読不能な暗号技術を紹介しました。展示では、非圧縮の8K映像を暗号化したうえで伝送し、ほぼ遅延なく表示できることを、実機を用いて実証しました。また、「トラステッドネットワークを支えるトランスペアレンシー確保技術」の展示では、サプライチェーン全体にわたって機器の構成やリスクを可視化し、正確かつ漏れのないセキュリティ管理を実現する技術を紹介しました。IOWN時代に向けて、誰もが安心して利用できる世界をめざすことが発表されました。

コンピューティング 空調最適制御シナリオ算出技術

「コンピューティング」カテゴリでは、IOWNを支えるコンピューティング技術やDTC、およびAI、DX関連の最新技術および取り組みを紹介しました。「快適性と省エネを両立する空調最適制御シナリオ算出技術」の展示では、室内の快適性指標(PMV)を温度、湿度、運動量より再現し、深層強化学習で算出した空調制御シナリオにより消費エネルギー量と快適性とを同時に最適化する技術を紹介しました。また、「4Dデジタル基盤®の実現に向けた取り組み」の展示では、DTCを支え、社会課題の解決や新たな価値創造をめざす基盤として、豊富な意味情報を持つ高度地理空間情報データベース上に多様なセンサデータを高精度・リアルタイムに統合し提供する4Dデジタル基盤®を紹介しました。

環境負荷ゼロ(環境・エネルギー) 衛星IoTセンサを活用した超広域大気/海洋観測技術

「環境負荷ゼロ(環境・エネルギー)」カテゴリでは、「地球のこと、宇宙(そら)から」をコンセプトに、地球環境の未来を宇宙の視点から革新する環境エネルギー技術を紹介しました。「環境再生/適応技術」の展示では、ゲノム編集を利用した海洋中CO2の生物学的変換技術、および衛星IoT(Internet of Things)センサを活用した超広域大気/海洋観測技術を紹介しました。これらの技術を軸に、将来的には環境負荷の低減、および地球環境変動に適応可能で、超レジリエントな社会の実現をめざします。また、「宇宙太陽光発電技術」の展示では、上空3万6000 kmの静止衛星軌道上に巨大な集光装置を設置することで太陽エネルギーをレーザやマイクロ波に変換して送信し、地上に設置した受信装置で受信して電力などのエネルギーに変換し利用する技術を紹介しました。

基礎研究 IOWN構想に基づくバイオデジタルツインの実現

「基礎研究」カテゴリでは、情報処理技術、先端的デバイス・フォトニクス技術、医療・バイオ技術に関する研究開発など、IOWN構想に資する各分野の基礎研究を紹介しました。「世界最高精度の周波数を遠隔地へ送る光格子時計ネットワーク技術」の展示では、光格子時計ネットワーク技術を紹介しました。従来の通信用周波数基準に対して10万倍以上の高い精度を達成する光格子時計のネットワークを活用し、5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)向けの長期安定時刻同期や防災に向けた精密標高差計測の実現をめざします。また、「医療健康ビジョン:バイオデジタルツインの実現」の展示では、個人の身体と心理の精緻な写像であるバイオデジタルツイン(BDT)への取り組みを示しました。BDTの実現により、心身の状態を予測し、健康で将来に希望を持てる輝く“医療の未来”への貢献が期待されます。

フォーラムを終えて

本年でIOWN構想は3年目を迎えました。今後、2024年にはデバイスの完成、2025年には装置の開発完了、2026年にはIOWNの商用導入の開始が予定されています。本フォーラムを通じ、2030年に予定されているIOWNの本格普及に向け、着実に前進していることを感じていただけますと幸いです。NTTは、これからも皆様のご期待に添えるよう、研究開発により一層努力していく所存です。