『NTT R&Dフォーラム 2019』開催報告

NTT研究所の研究成果を紹介する「NTT R&Dフォーラム」。今回は、11月14日(木)~15日(金)の2日間にわたって、“What's IOWN?―Change the World”をコンセプトに、「NTT R&Dフォーラム2019」としてNTT武蔵野研究開発センタ(東京・武蔵野市)で開催された。
講演会場では、代表取締役社長の澤田純、取締役・研究企画部門長の川添雄彦両氏による基調講演および計6つの特別セッションが行われた。
展示会場では「メディア・デバイス/ロボティクス」、「基礎研究」、「ネットワーク」、「データ活用・管理」、「AI」、「セキュリティ」といったテーマごとの研究に加えて、「IOWN」が実現する“Smart World”のビジョンや、「IOWN」に関連するさまざまな技術に関する展示が行われた。
本稿では、展示の中から、特に注目を集めていた研究をピックアップしてレポートする。

写真1:R&Dフォーラム2019
写真1:R&Dフォーラム2019
写真2:多くの来場者がつめかけたR&Dフォーラム2019の会場
写真2:多くの来場者がつめかけたR&Dフォーラム2019の会場

IOWN

IOWN for Smart World
「IOWN for Smart World」では、IOWNによって実現されるSmart Worldのビジョン、およびIOWNに関連する技術が紹介された。

ボード/チップ上の光ネットワーク〈LSIに光リンクを導入し低消費電力化します〉ナノフォトニックアクセラレーション〈ナノフォトニクスで情報処理を加速します〉(IOWNの要素技術:G03/G04)

本展示では、CMOSを上回る高性能・超低消費電力チップの実現に向けた、チップやボード上の光ネットワークや超小型光電変換素子といった、ナノフォトニクス技術を利用した技術が紹介されている。
「ボード/チップ上の光ネットワーク」では、電子回路の配線を光ネットワーク化することで、消費電力の大幅な削減をめざす技術が展示された。ネットワーク通信の高速化にともない、従来の配線では長さやスピードの限界とともに、データ通信に使用される消費電力の増大が問題視されつつあり、とりわけデータ通信における消費電力については、NTTによる利用が日本の1%を占めるといわれる。
電子回路の配線を光ネットワーク化することで、従来の配線における距離の制限や消費電力の低減が可能になり、本技術では配線部分の消費電力を1/100に抑えるべく、研究・開発が進められている。
本技術では、シリコンダイオキサイド上に薄膜の半導体を積層することによって、屈折率差の大きい構造を作り出すことで、高効率・低消費電力の半導体レーザの開発をめざしており、通常は縦構造のPINを横構造とすることで技術的な困難を解決した。
「ナノフォトニックアクセラレーション」では、フォトニック結晶と呼ばれるナノ構造を利用した光電変換素子に関する展示を行っている。フォトニック結晶を用いた光電変換素子は、従来の素子と比較して非常に小型かつ低消費電力で、本技術では受光器(O→E変換)と光変調器(E→O変換)を集積した「光トランジスタ」(O→E→O変換)によって、従来の光トランジスタ研究と比較して1/100の低消費電力化と小型化、および高性能化を実現している。
将来的には、光スイッチの2次元集積を利用した光デジタル論理処理や光ニューラルネットワークと、本技術の光トランジスタを組み合わせることによって、電子回路技術だけでは難しい低遅延な情報処理チップの開発をめざしている。

写真3:IOWN(アイオン:Innovative Optical & Wireless Network)は、スマートな世界を実現する、最先端の光関連技術および情報処理技術を活用した未来のコミュニケーション基盤です。
写真3:IOWN(アイオン:Innovative Optical & Wireless Network)は、スマートな世界を実現する、最先端の光関連技術および情報処理技術を活用した未来のコミュニケーション基盤です。
写真4:ボードやチップ上の配線を光化することで大幅な消費電力の低減を実現している
写真4:ボードやチップ上の配線を光化することで大幅な消費電力の低減を実現している
写真5:受光器と変調器を集積した光トランジスタによって、情報処理チップの低消費電力化・高性能化をめざす。
写真5:受光器と変調器を集積した光トランジスタによって、情報処理チップの低消費電力化・高性能化をめざす。

IOWNを実現するALL光ネットワーク技術〈膨大な情報をスマートに伝送する光伝送網を提供します〉空間データサイエンスに基づくIOWN最適設計〈IOWN時代のひと・こと・もの通信を最適に収容します〉
IOWNを支える波長管理制御技術〈挿せば何でもすぐにつながるネットワークを実現します〉(IOWNの要素技術:G05/G06/G07)

本展示では、IOWNを支えるオールフォトニクス・ネットワーク(APN)において、今後さらなる増加が予想される大量の通信を最適に収容・制御するための技術が紹介されている。
APNでは、サービスごとに波長単位で大容量光ファイバを提供して専用網を構成するとともに、ユーザ端末やネットワークの種類などに依存しないアクセスを特徴としており、リッチなコンテンツを利用する際のデータ圧縮をなくすことで、高品質・低遅延を実現する。
「IOWNを実現するALL光ネットワーク技術」では、波長ごとの大容量光データ伝送、波長の広帯域多重技術、映像などをプロトコルを問わず収容するための伝送技術などが紹介されている。
展示ブースでは、600Gbpsの回線を波長多重することで、ファイバあたり0.24Pbps大容量伝送系を構築し、8Kの映像データを非圧縮で転送するデモを行い、あわせて圧縮した8K映像とあわせて展示することによって、APNが実現する高品質・低遅延を紹介した。
「空間データサイエンスに基づくIOWN最適設計」では、ユーザやサービスごとに波長を割り当てることで高品質・低遅延を実現するAPNにおいて、少なくとも1億以上の波長が必要となる通信を効率的に収容するために、波長変換装置などの設置や、ドメイン分割法・トポロジ最適化法などの利用によって利用効率を大幅に向上する技術が紹介されている。
展示ブースでは、これらの技術を利用することで、光ファイバの利用率を大幅に削減するシミュレーションが行われた。
「IOWNを支える波長管理制御技術」では、APNの特徴のひとつであるユーザやサービスごとの波長割り当てや、端末・ネットワークの種類を問わない接続を可能するための、ユーザ装置の波長管理制御をリモートで行う技術を紹介している。
本技術は、ユーザ信号にAuxiliary Management and Control Channel(AMCC)と呼ばれる管理制御信号を重畳することで実現しており、展示ブースではAMCCによる波長制御の様子を紹介している。AMCCありとAMCCなしの映像配信が比較展示されており、AMCCなしの場合は、ユーザ装置の送信波長がずれることでサーバ-クライアント間接続が不安定になり、映像品質が低下した。一方のAMCCありの場合は、収容局装置からのAMCC信号を利用したフィードバック制御によってユーザ装置の送信波長を補正させることで、安定した映像品質を得られることを確認できた。

写真6:ファイバあたり0.24Pbpsの大容量伝送を行うデモンストレーションが行われた
写真6:ファイバあたり0.24Pbpsの大容量伝送を行うデモンストレーションが行われた
写真7:非圧縮で伝送された8K映像(右)は、圧縮映像よりも高品質・低遅延であることがわかる
写真7:非圧縮で伝送された8K映像(右)は、圧縮映像よりも高品質・低遅延であることがわかる
写真8:波長変換やドメイン分割、トポロジ最適化などを組み合わせることで、光ファイバの利用効率の大幅な向上が可能になる
写真8:波長変換やドメイン分割、トポロジ最適化などを組み合わせることで、光ファイバの利用効率の大幅な向上が可能になる
写真9:AMCCあり(左)とAMCCなしでの映像伝送の比較。AMCCなしの場合は映像品質が不安定になるが、AMCCありの場合は映像品質が安定することを視覚的に確認できる
写真9:AMCCあり(左)とAMCCなしでの映像伝送の比較。AMCCなしの場合は映像品質が不安定になるが、AMCCありの場合は映像品質が安定することを視覚的に確認できる

光エネルギー高効率利用技術〈災害時も光エネルギーなどの活用で通信を確保します〉(IOWNの要素技術:G12)

本展示では、光エネルギーの高効率利用技術として、災害時を想定した通信の確保に関するデモンストレーションが行われた。
2019年の台風15号など、大規模災害に起因する停電が頻発している。本技術は、そういった停電が発生した状況における、光エネルギーなどを活用した通信の確保をめざしたもの。
展示ブースでは、通信局舎側の光源からレーザ光を発振し、ユーザ宅でそのエネルギーを電気に変換して蓄積したバッテリーから給電してひかり電話を利用する様子が紹介された。
しかしながら、光ファイバで伝送できるエネルギーは限られており、通信局舎から供給する光エネルギーのみで通信装置を駆動するのは困難である。そこで、通信装置の消費電力の抑制技術、その他の微小エネルギーとの連携による発電、蓄電、給電技術などの研究開発によって実現をめざしていく。

写真10:大規模災害などによる停電時でも、光エネルギーなどを活用することで通信の確保をめざす
写真10:大規模災害などによる停電時でも、光エネルギーなどを活用することで通信の確保をめざす
写真11:通信局舎の光源からのレーザ光が、光ファイバを経由してユーザ宅の受光装置で電気に変換される
写真11:通信局舎の光源からのレーザ光が、光ファイバを経由してユーザ宅の受光装置で電気に変換される

人工光合成〈太陽光を使ってCO2から燃料を作ります〉(IOWNの要素技術:G13)

本展示では、太陽光を使ってCO2を原料に化学燃料を作り出す、人工光合成技術を紹介している。同技術は、排出されたCO2を再燃料化して利用することによって、炭素循環社会の実現をめざすもので、半導体と触媒の技術を用いてCO2と水を原料に、太陽光を活用して水素、一酸化炭素、ギ酸といった有用な物質を作り出す。
原理としては、受光部である半導体電極に光が照射されると電子が生成し、燃料生成部である金属電極上でCO2と反応して有用物質が作られる。半導体電極の寿命と効率の向上に取り組んでおり、水素生成反応において300時間の連続使用後でも9割近い性能の維持を実現している。
想定される利用シーンとして、展示ブースでは屋根に人工光合成を行う部材を配置して、人工光合成によって得られたエネルギーを使用する小規模な住宅の模型が紹介されたほか、工場など大量のCO2を排出する大規模施設での利用も考えられている。
さらに、屋外の特設ブースでは、人工光合成を屋外で長期間行った際に、気温の変化や光の変化といった外乱因子が性能にどのような影響を及ぼすかを確認するための屋外実験装置が設置された。

写真12:人工光合成を利用した小規模な住宅の模型
写真12:人工光合成を利用した小規模な住宅の模型
写真13:特設ブースに設置された人工光合成の屋外実験装置。6角形の部分が受光部
写真13:特設ブースに設置された人工光合成の屋外実験装置。6角形の部分が受光部
写真14:人工光合成によって有用物質(水素)が生成されていることがわかる
写真14:人工光合成によって有用物質(水素)が生成されていることがわかる

デジタルツインコンピューティング〈革新的なモノやヒトのインタラクションPFを提供します〉(IOWNのユースケース:G18)

本展示では、デジタルツインを利用した、より広範な分野での利用が可能なプラットフォームに関する研究が紹介されている。
実世界をデジタル空間に再現し、現実空間とリアルタイムで連携させるデジタルツインは、より実際の状況に近いリアルなシミュレーションが可能だが、現状のデジタルツインは分野ごとに個別に利用されており、用途の発展は難しかった。
本展示で紹介している「デジタルツインコンピューティング」は、現在個別に利用されているさまざまなデジタルツインを分野横断的に掛け合わせ、デジタル空間上で複製や交換を行う「デジタルツインコンピューティング演算」によって、より大規模かつ複雑なシミュレーションを可能にするプラットフォームの実現をめざしている。
本技術の応用例のひとつとしては、ヒトのデジタルツインと議論することで意思決定の支援を行う、という利用シーンが考えられており、展示ブースではデジタルツインによってシミュレーションされた「過去の自分」、「未来の自分」、および有識者と議論を行うコンセプトデモンストレーションが披露された。

写真15:さまざまなデジタルツインを掛け合わせて、より大規模かつ複雑なシミュレーションを実現
写真15:さまざまなデジタルツインを掛け合わせて、より大規模かつ複雑なシミュレーションを実現
写真16:展示ブースではデジタルツインによる「過去の自分」、「未来の自分」、および有識者を交えて議論を行うコンセプトデモンストレーションが行われた
写真16:展示ブースではデジタルツインによる「過去の自分」、「未来の自分」、および有識者を交えて議論を行うコンセプトデモンストレーションが行われた

メディア・デバイス/ロボティクス

「メディア・デバイス/ロボティクス」では、「時空間」を超えた感動を伝えるVR/AR関連技術を中心に、ITリテラシーの有無によらず誰もがテクノロジーの恩恵を受けられるようなユーザインタフェースに関する技術の展示が行われた。

IOWNxEntertainmentを支える技術〈リアルとバーチャルの融合による超越体験を創出します〉(時空間を超えた新たな体験を提供するメディア技術:A01)

本展示では、エンターテイメント分野における「IOWN」の活用を実現する技術として、「ゼロレイテンシメディア技術」、「2D・3D映像表示」、「視差無しワイドカメラ」など多彩な技術が紹介された。
「ゼロレイテンシメディア技術」は、デジタルツインやVRといった仮想空間における遅延を、5Gや高速光ファイバ通信といった通信技術によって物理的に限りなく低減させることに加え、人間の感覚器としての遅延を考慮し、遅延に潜む違和感を解消することによって、より自然に遅延がゼロになったと感じられる技術への取り組みをめざしている。
遅延をゼロにする際、単純に視覚的に予測結果だけを見せるのではなく、人間が感じている時間感覚を考慮する必要がある。遅延に起因する違和感は、人や利用シーンによってさまざまであり、人の感覚器から脳まで、また脳からの信号で体を動かすまでにも遅延は生じる。そのため「人間特有の時間軸」を考え、人間の持つ時間軸と実際の時間軸とのズレ(感覚的遅延)をなくすことで、遅延がゼロになったと感じられるのではないか、といった取り組みを行っている。
「2D・3D映像表示」では、裸眼で見ると2D映像、3Dメガネを装着すると3D映像に見える、1つの映像で2Dと3Dの両方を楽しめる映像が展示された。本技術を利用することで、一般的な2Dカメラで撮影した映像を、後処理で3D化できるようにもなる。
2D映像からの3D化に関し、今回の展示では深層学習による奥行きの推定や、被写体抽出などを利用して自動化に取り組んだ映像が紹介されていた。しかしながら、現時点ではまだまだ手作業部分が多く、今後も継続して自動化に向けた研究を進めていく。
「視差無しワイドカメラ」は、従来なら複数台のカメラで撮影した映像をつなぎ合わせる必要があった超ワイド映像の撮影を、1台のカメラで実現した。展示された16K映像の場合は、通常なら4Kカメラが5台必要だが、本技術ではカメラに搭載した4基のセンサに対して、プリズムで分光することで4K×4の同期された映像を1台のカメラで撮影できる。また、撮影された映像は簡単な合成処理によって、超ワイド映像への変換が可能になっている。
従来手法に比べ、カメラ、サーバの設置スペースがコンパクトになり、広視野角遠隔監視等でのカメラ設置場所の自由度が向上した。また、スポーツやエンターテイメント分野での高臨場感ライブビューイングへの適用も想定している。

写真17:2D・3D映像表示技術による映像。裸眼では通常の2D映像として見えるが、3Dメガネを装着すると3D映像として視認できる
写真17:2D・3D映像表示技術による映像。裸眼では通常の2D映像として見えるが、3Dメガネを装着すると3D映像として視認できる
写真18:視差無しワイドカメラ
写真18:視差無しワイドカメラ
写真19:16Kの超ワイド映像を1台のカメラで撮影できる
写真19:16Kの超ワイド映像を1台のカメラで撮影できる

超小型可視光光源技術〈超小型表示デバイスで視覚インタフェースを進化させます〉(人間の可能性を広げるヒューマンマシンインタフェース技術:A04)

本展示では、アイウェア型デバイスにも搭載可能な、超小型可視光光源が紹介されている。
ハンズフリーな視覚インタフェースであるアイウェア型デバイスは、光源としてレーザを使用し直接網膜に映像を描画することで、どこでもピントが合わせられる(フォーカスフリー)というメリットがある。一方で、従来のレーザ光源ではサイズの関係上アイウェア型デバイスには内蔵できず、別途光源を光ファイバで接続しなければならない。このような方式では、外部光源やケーブルが必須のため装着負荷が多く、レーザの伝送に光ファイバを用いるためケーブルの取り回しに難があった。
本展示の超小型光源は、従来のレーザ光源と比較して1/100程度の小型化によって、アイウェア型デバイスへの内蔵を可能にしており、ハンズフリー、フォーカスフリーに加えて、装着負荷の少ない、ストレスフリーな表示装置を実現できる。
展示ブースでは、開発中の超小型光源と、レーザを使用したアイウェア型デバイスが展示された。

写真20:ブースに展示された超小型光源。従来のレーザ光源の1/100のサイズを実現している
写真20:ブースに展示された超小型光源。従来のレーザ光源の1/100のサイズを実現している

ダイナミックフィールド3次元動きセンシング〈スポーツシーンを再現するために人物軌跡を抽出します〉(時空間を超えた新たな体験を提供するメディア技術:A05)

本展示では、複数台のカメラで撮影したハンドボールの試合の映像から作成された、VRコンテンツのデモンストレーションが行われた。
展示ブースでは、熊本県で11月30日から開催される、女子ハンドボール世界選手権大会に先立って行われた練習試合を元に作成されたVRコンテンツが紹介されていた。撮影の時点では動き抽出の事前に行う複数のカメラの校正や人物軌跡の抽出処理、事後に行う精度に問題があるシーンの修正処理などに手作業を要する工程があったことから、40秒のシーケンス作成に3か月を要していたという。しかし、現時点では「人間の関節はフレーム単位では大きく動かない」という仮説に基づき、カメラ校正や人物の軌跡の抽出を半自動化することで、40秒あたりのシーケンス作成に1.5ヵ月を要した事前処理を1日に短縮した。事後処理の短縮についても、取組みを予定しているとのことである。
映像からの人物の動き抽出によって、骨格情報の「動き」の解析が可能になることから、「動き」情報を利用した状況判断や技術習得トレーニングへの応用が考えられている。
なお、展示ブースではヘッドマウントディスプレイを利用して、あたかもその場にいるかのような臨場感あふれるハンドボールの試合を体感できた。

写真21:複数のカメラで撮影した映像から人物の動きを抽出し、VRコンテンツの作成や人物の動きの解析に利用できる
写真21:複数のカメラで撮影した映像から人物の動きを抽出し、VRコンテンツの作成や人物の動きの解析に利用できる
写真22:ハンドボールの試合映像から作成されたVRコンテンツが展示
写真22:ハンドボールの試合映像から作成されたVRコンテンツが展示
写真23:ヘッドマウントディスプレイによってVRコンテンツを体験できた
写真23:ヘッドマウントディスプレイによってVRコンテンツを体験できた

基礎研究

「基礎研究」では、社会に変革をもたらす基礎研究に関する紹介が行われた。

ダンシングペーパー〈輪郭と背景を工夫することで印刷物が錯覚で動いて見えます〉(基礎研究:B01)

本展示では、印刷物の輪郭線を工夫することで、印刷物が動いているように見える技術を「ダンシングペーパー」として紹介している。
輪郭線の明暗を変えることで、照明の明暗のパターンに応じて、あたかも絵が動いているかのように見せることができる。蛍光灯とスモークガラスによる明暗パターンの変化と、印刷物とを組み合わせることで、デジタルサイネージのような液晶が使えない環境でも、手軽に動きのある広告の設置が可能になっている。
展示ブースでは、明暗パターンの変更による動きを実際に体感できるデモンストレーションが行われた。

写真24:輪郭線の工夫によって、照明の明暗を変えるだけであたかも絵が動いているかのように見える
写真24:輪郭線の工夫によって、照明の明暗を変えるだけであたかも絵が動いているかのように見える。

高出力ビーム成形技術でインフラメンテナンス〈工具を使いにくい凹凸面のさびを素早く除去します〉(基礎研究:B05)

本展時では、インフラのメンテナンスへの利用に向けた、レーザを利用したさび取り技術が紹介された。
同技術は、ホログラムメモリ技術を応用した反射型DOE(回折素子)を利用したもので、将来的にはハンディサイズのレーザさび取りツールの開発を目的としている。
反射型DOEは、単なる点光源レーザを任意のパターンに成形できる。インフラのメンテナンスでは、さびの除去だけでなく、その後の塗装を剥がれにくくすることが求められるが、レーザでさびを落とした箇所は一般的に塗装が剥がれやすくなることから、鋼板とレーザとの相互作用を解明することによって、再塗装後の塗料が剥がれにくいさび取りをめざしている。
展示ブースでは、点光源レーザを反射型DOEで成形して、NTTのロゴを表示させる様子や、実際に本技術を用いてさび取りが行われた鋼板などが展示された。

写真25:反射型DOEによって、レーザを任意のパターンに成形できる
写真25:反射型DOEによって、レーザを任意のパターンに成形できる
写真26:本技術を用いてさび取りが行われた鋼板も展示された
写真26:本技術を用いてさび取りが行われた鋼板も展示された

光メタサーフェス〈人の眼には見えない光の情報をAIにとどけます〉(基礎研究:B06)

本展示では、人間の目では見えない光の情報を取得できるデバイスの実現をめざす研究が紹介された。
このようなデバイスを実現するのが「光メタサーフェス」で、ガラス上に微細な構造をデザインすることで、入射光から人間の目で見える光の3原色に加えて、人間の目では捉えられない情報も分類して取得できる。フィルタリングとは異なり、光の情報を失うことなく、多彩な情報を分類してセンサへ送れるのが特徴である。
展示ブースでは人間の目には見えない偏光情報や波長情報を分類して取得できる光メタサーフェス素子が展示されている。

写真27:ガラス上にデザインされた微細な構造によって、光情報を分類して取得できる
写真27:ガラス上にデザインされた微細な構造によって、光情報を分類して取得できる
写真28:展示ブースでは、光メタサーフェス技術による光情報の取得を体感できる素子が展示された
写真28:展示ブースでは、光メタサーフェス技術による光情報の取得を体感できる素子が展示された

ネットワーク

「ネットワーク」では、多様化・複雑化するニーズに対応し、スマートな社会基盤を実現する、光/無線によるネットワーク技術や高度な制御・運用技術が紹介された。

複数無線アクセス最適利用のための品質予測技術〈流動的な無線通信品質をAIで予測し最適に利用します〉(革新的ネットワークにつながる光・無線技術:E07)

本展示では、スマートフォンや自動搬送ロボットなどが利用する無線通信の品質を悪化させる要因を、AIを使って予測する技術が展示された。
無線通信の品質を悪化させる要因としては、通信環境の変化や、混雑具合が挙げられる。これまでの無線通信の品質予測においては、おもに受信信号の強度を元にしていたが、近年の無線通信利用者が爆発的に増加した環境では、無線通信の品質をより正確に分析するには、通信の混雑度合いや機種ごとの特性の違いなどを考慮する必要がある。
そういった背景から、本研究では「時間ごとの混雑度合い」、「位置ごとの信号強度/トラフィック量」、「端末の種類(機種)」といったより詳細な情報を収集し、機械学習によって分析することで、無線通信品質のより正確な予測を可能にしている。
本技術の応用例としては、無線通信の妨げになりやすい障害物が多く、OA機器などの影響によって無線通信の混雑度合いが大きく変化する大型倉庫で用いられる自動搬送ロボットが、安定した無線通信を維持するための通信制御への利用などが想定される。

写真29:無線通信の品質に関わる多様な情報を機械学習を利用して予測し、安定した無線通信の実現をめざす
写真29:無線通信の品質に関わる多様な情報を機械学習を利用して予測し、安定した無線通信の実現をめざす
写真30:自動搬送ロボットの位置に応じて、無線通信の受信信号強度が変化する様子が紹介された
写真30:自動搬送ロボットの位置に応じて、無線通信の受信信号強度が変化する様子が紹介された

データ活用・管理

「データ活用・管理」では、膨大かつ複雑なデータを高速で処理し、さまざまな業界・地域での自由な活用を可能にする技術が紹介された。

クラウドGNSS測位アーキテクチャ〈クラウド処理でセンチメートル級測位の可能性を広げます〉高精度GNSS位置情報サービス〈高精度な位置情報で社会課題を解決します〉(多数のモビリティの状態をリアルタイム収集:H24/H23)

本展時では、GNSSレシーバの測位演算の一部をクラウドで処理することで、高精度な測位を実現する「クラウドGNSS測位アーキテクチャ」と、国土地理院が設置する電子基準点と独自固定局の観測データを移動局に配信することで高精度な測位を可能にする「高精度GNSS位置情報サービス」を紹介している。
「クラウドGNSS測位アーキテクチャ」は、従来はレシーバの内部で行っていたGNSS(GPSを含む航法衛星システムの総称)の測位演算処理にクラウド/エッジ側の潤沢なリソースを活用することで測位精度の改善を図る新たな測位機能配備の試み。スマート・サテライト・セレクション®技術を搬送波位相測位に適用することでビルなどが建ち並ぶ「アーバンキャニオン」と呼ばれる受信環境において10センチメートルオーダーの精度での車両の軌跡の追跡を可能にしている。本技術を利用すれば、車両がどの車線を走っているのかを判別できるため、有料道路での課金システムなどへの適用が考えられる。さらに、GNSS衛星の位置は時々刻々と変化するため、3D地図を用いたシミュレーション環境を構築することにより、任意の車両位置や時刻における測位性能をラボ環境で系統的に繰り返し検証することが可能となる。
展示ブースでは、地図情報に建物高さデータを組み込むことで吉祥寺の街並みを正確に再現し、車両が走行した際に衛星信号がどのように反射するかをリアルタイムでシミュレーションしながらクラウド演算によって測位を行う様子と、車両で収集した受信データ(観測データ)をクラウド処理により測位した結果をビューアで再生する、デモンストレーションが行われた。
「高精度GNSS位置情報サービス」は、通常のGNSS測位(コード測位)では数メートル単位の測定誤差が発生するところ、搬送波位相測位(ネットワークRTK)方式により誤差数センチメートルの測位精度を実現するサービス。本サービスでは、移動局が受信するGNSS衛星からの情報に加えて、位置補正情報配信サーバから配信される位置補正情報を利用することで、高精度な測位を可能にしている。
なお、位置補正情報配信サーバが提供する位置補正情報には、国土地理院の電子基準点における観測情報と、独自固定局における観測情報を使用する。
展示ブースでは、本サービスで用いられるGNSS受信機(移動局)や、本サービスを利用した高精度測位の実施例が紹介された。

写真31:展示ブースでは、建物によって衛星からの測位信号がどのように反射するかをシミュレーションする様子も紹介された
写真31:展示ブースでは、建物によって衛星からの測位信号がどのように反射するかをシミュレーションする様子も紹介された
写真32:吉祥寺駅前の一般道におけるレーン判定測位と従来のコード測位結果の比較、シミュレーションで生成した疑似GNSS信号を使用したクラウドで処理による測位デモンストレーションの様子
写真32:吉祥寺駅前の一般道におけるレーン判定測位と従来のコード測位結果の比較、シミュレーションで生成した疑似GNSS信号を使用したクラウドで処理による測位デモンストレーションの様子
写真33:航法衛星からの情報と位置補正情報配信サーバからの情報を組み合わせることで、より高精度な測位を実現
写真33:航法衛星からの情報と位置補正情報配信サーバからの情報を組み合わせることで、より高精度な測位を実現
写真34:GNSS受信機や高精度測位の実施例が展示された
写真34:GNSS受信機や高精度測位の実施例が展示された

AI

「AI」では、人と共存・共創することで生活を豊かにし、新たな価値の創造を実現するAI関連技術が紹介された。

音声の認識から意味理解へ〈言葉にのらない気持ちを読み取って意思疎通の質を高めます〉(人を支えるAI:H40)

本展示では、音声から言葉の情報とともに、言葉にはのらない感情や、話者の性別といった非言語の情報を認識する技術を紹介している。
従来の音声認識では、テキスト情報のみの認識だったため、どのような意図を持って話しているかまではわからなかった。本技術は、話者の感情(喜び、怒り、悲しみ、平静)や、「質問」などの意図を、聞き手が音声から認識できるようにすることをめざしている。
感情や意図、話者の性別などの判別には、さまざまな話者の音声を元にした深層学習を利用。また、約2万時間の学習に基づいて開発した、雑音に強い音声認識技術を活用している。
応用分野としては、ロボットや音声対話エージェント、電話などにおける自動応答、コールセンタでの利用といった用途を想定しており、話者の感情や意図に応じた対応や、コールセンタでの会話内容の分析による事後対応やオペレータの評価などでの活用が考えられる。
展示ブースでは、感情や意図、性別が認識される様子を、マイクに向かって実際に話して体験できた。

写真35:感情や意図といった言葉だけではわかりにくい情報を認識する
写真35:感情や意図といった言葉だけではわかりにくい情報を認識する
写真36:マイクに向かって話すことで、感情や意図、性別が認識される
写真36:マイクに向かって話すことで、感情や意図、性別が認識される

ロボットと話そう「いつ、どこで、何をした」〈発話からのイベント理解で文脈に沿った対話をします〉(人を支えるAI:F06)

本展示では、ロボットとの雑談において、人が話した内容から「いつ」、「どこで」、「何をした」といった情報をロボットが理解しながら対話を行うことで、話した内容が相手(ロボット)に「伝わった」と感じられる対話システムに関する研究が紹介された。
従来の対話システムでよく用いられる「1問1答」形式の対話では、ユーザの発話に対して、システムが文脈を見ずに応答を選択・生成していたため、ユーザが過去に言及した内容についてシステムが繰り返し尋ねてしまったり、文脈に整合しない的外れな返答をしてしまったりと、うまく会話が成立しない場合があった。
本技術では、話者の話した内容から、文脈を「5W1H(だれが・いつ・どこで・なにを・なぜ・どのように)」のような構造として理解することで、同じ質問の繰り返しを防いでいる。また、会話を通して理解する構造と同様の構造で、システムの「知識・体験」データを事前に記述しておき、それを利用することで、体験を根拠とした共感や文脈に整合した話題展開を実現している。
本技術によって、人と会話を楽しめるロボットが実現できるほか、ロボットとの会話を通した言語学習も可能と考えられる。
展示ブースでは、ロボットと実際に対話を行い、島根で出雲そばを食べたことについて、ロボットが理解し、「そばつゆを割って飲むのがおいしかったと聞いた」という根拠の感じられる共感や、「誰と行ったんですか」などと文脈に沿った話題展開を行う様子を体験できた。

写真37:話者が話した内容を構造化して理解し、理解結果と「知識・体験」データに基づいて共感・関連質問を行うことで「伝わった」と感じられる会話を実現
写真37:話者が話した内容を構造化して理解し、理解結果と「知識・体験」データに基づいて共感・関連質問を行うことで「伝わった」と感じられる会話を実現
写真38:ユーザの発話内容を理解する様子(ディスプレイ上段)および理解結果に沿った共感や話題展開を行う様子(ディスプレイ下段の対話ログ)
写真38:ユーザの発話内容を理解する様子(ディスプレイ上段)および理解結果に沿った共感や話題展開を行う様子(ディスプレイ下段の対話ログ)

セキュリティ

「セキュリティ」では、安全なデータ流通や活用を支える暗号応用技術や、サイバー攻撃の検知・防御技術が紹介された。

データ流通の将来像とそのセキュリティ技術〈暗号技術で多様化する社会課題の解決に貢献します〉(セキュリティ:H04)

本展示では、企業や個人が持つデータをプライバシや法制度に配慮しつつ他企業に活用させることで、より高度なデータ活用ビジネスを創出するための研究として、「多者間鍵共有プラットフォーム」と「秘密計算AI」の2つの技術が紹介されている。
「多者間鍵共有プラットフォーム」では、多者間鍵共有技術をより容易に、かつ広範なアプリケーションやサービスで利用可能にするために、同技術をプラットフォーム化して暗号鍵の配布や暗号化を機能として提供し、既存のクラウドサービスとの連携をめざす。従来は、専用のサーバなどが必要だった暗号鍵の配布や暗号化が機能として提供されるので、既存のサービスにシームレスで暗号化機能が追加できる。
「秘密計算AI」は、秘密計算技術をディープラーニングの学習処理に活用したもので、秘密計算でディープラーニングの標準的な学習ができるのは世界ではじめてとなる。
秘密計算は、暗号化されたままの状態で処理を可能にすることで安全なデータ利活用を実現する技術である。データの暗号化はISOで標準化されている秘密分散という暗号技術を用いている。データは暗号化した状態で登録されており、処理中は一度も復号されない。なお、秘密計算で統計分析を行うシステムは「算師®」として商用提供も行われている。

写真39:多者間鍵共有技術をプラットフォーム提供することで、既存のクラウドサービスへのシームレスな暗号化機能の搭載を実現
写真39:多者間鍵共有技術をプラットフォーム提供することで、既存のクラウドサービスへのシームレスな暗号化機能の搭載を実現
写真40:暗号化したままデータ処理が可能な秘密計算を、世界ではじめてディープラーニングの標準的な学習処理に利用
写真40:暗号化したままデータ処理が可能な秘密計算を、世界ではじめてディープラーニングの標準的な学習処理に利用

Action for 2020and Beyond

「Action for 2020 and Beyond」では、いよいよ来年に迫った2020年とその先の社会に貢献する技術が紹介された。

ウェアラブル生体・環境センサ(Action for 2020 and Beyond)

本展示では、熱中症の危険があるような過酷な環境で作業を行う人の暑さ対策のためのデバイスを紹介した。
本研究は、hitoeが測定した心拍数や心電波形と、衣服に取り付けられるセンサが計測した衣服内の温度や湿度から、深部体温(体の内部の温度)を推定する技術の開発を目的としている。
衣服に装着するセンサは、温度・湿度・心拍・心電波形、および加速度の計測を、従来のセンサと比較して1/3のサイズと重量で実現。また、マルチセンサデータ信号処理によって、従来のセンサと同等の動作時間を、半分の大きさの電池で可能にした。
計測データから深部体温を推定するロジックは、名古屋工業大学との共同開発で、横浜国立大学と至学館大学の生理学研究室が実証を担当する。
2020年夏には実証実験を予定しており、秋以降の商用展開をめざす。また、将来的には高齢者の見守りといった用途も考えられている。

写真41:hitoeが測定した心拍や心電波形、衣服に取り付けたセンサが測定した衣服内の温度・湿度から深部体温を推定できる
写真41:hitoeが測定した心拍や心電波形、衣服に取り付けたセンサが測定した衣服内の温度・湿度から深部体温を推定できる