光電子複合機能集積研究グループ

研究G紹介

私たちは、光回路(光導波路技術(PLC)や光メタサーフェス技術)を核とし、空間・時間・量子の情報を一体として扱える新たな光信号処理技術・光情報処理技術を研究しています。光を「情報媒体」「計算媒体」として捉え、情報科学・数理科学の視点から、次世代の通信・センシング・情報処理基盤の創出を目指します。

・光メタサーフェスとイメージング応用
・光を使ったコンピューティングを実現する光回路技術

テーマ

研究開発成果

ピックアップテーマ:光メタサーフェスとイメージング応用

・どんな技術

ナノメートルスケールの微細構造を用いて、光の波長よりも短い距離でその位相を精密に制御する技術です。これにより、光の波面を自在に操作でき、従来の光学素子では実現が難しかった高機能な光制御が可能となります。このメタ構造は、自ら光を発するわけでも、電気的に制御されるわけでもない"受動的"なデバイスです。しかし、この受動性が、光という物理現象が持つ干渉・回折・屈折といった自然なふるまいを、構造設計のみで引き出し、従来は実現できなかった新しい次元のイメージングを実現します。すなわち、私たちはこの技術を、情報処理の前段を「自然がそのまま光を操る」光のプリプロセッサだと考えています。

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光メタサーフェスと光波面制御

                         光メタサーフェスと光波面制御

・何が特徴?

半導体プロセスの親和性:半導体プロセス技術と高い親和性を持ち、ナノ柱の幅を変えるだけで光の位相制御が可能です。
超高精度な光操作:従来のレンズのような機能に加え、光波長より短い周期で位相を変化させられるため、理論上は光を直角に曲げることも可能です。

・何ができる?

高効率イメージングの実現:イメージセンサ上のレンズやRGBカラーフィルタの代替として、光メタサーフェスを用いることで、RGB各波長の光を異なる受光素子に集光させることに成功しました。
感度向上:従来のカラーフィルタ方式と比較して、約3倍の高輝度なイメージングが可能であることを実証しました。これは、不要な光を吸収するのではなく、すべての光を有効に利用することによる効果です。
情報処理への展開:光の情報を光のまま扱い、必要な処理を光学的に行う新たなイメージング技術の創出に貢献します。これは、より高精細で低遅延なイメージングを可能にするだけでなく、光を用いた情報処理の基盤にもなり得ます。

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光メタサーフェスに基づく新しいイメージセンサとスペクトルカメラ

ピックアップテーマ:光を使ったコンピューティングを実現する光回路技術

・どんな技術

私たちが主に研究している光回路は、それ自体では光を発したり、変調をかけたり、電気信号を生み出したりすることはできない、光が通過することで機能する受動的な(パッシブな)光デバイスです。そのため、光回路の価値は「どのような光に、どんな情報を載せ、どう扱うか」といった全体をデザインする力にかかっています。そして、このパッシブなな性質こそが、光が物理的に通過するだけで計算が行えるという、極めて低遅延・低消費電力な情報処理の実現を可能にします。つまり、自然のふるまいそのものを使って計算を行う、新たな情報処理のあり方を目指しているのです。

私たちは、光通信で培った光導波路※1や干渉制御の技術を基盤に、こうした原理を活用する「光コンピューティング※2」の構築に取り組んでいます。これは、単に処理速度や省エネ性能を追求するだけでなく、情報処理そのものと光の振る舞いを結びつける新しい技術の創出を目指しています。

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・何が特徴?

私たちが開発する光回路は、石英系導波路などの光回路を用いて光の干渉状態を高精度に制御し、任意のユニタリ演算※3を実現可能とするものです。さらに、波長・空間・時間といった光の多重性を最大限活用することで、1秒間に100兆回超の演算と1演算あたり10⁻¹²ジュール以下の超低消費電力を両立する、大規模な光計算ハードウェアの構築を進めています。 ​

・何ができる?

この光コンピューティング技術は、AI※4処理のボトルネックである大規模な非線形行列演算を、桁違いの速度と効率で実行可能にします。現在、AIモデルの訓練には1回で数百MWhにおよぶ電力を消費し、自動車の生涯CO₂排出量を上回るとされており、持続可能性の観点からも大きな課題となっています。私たちは、こうした問題を光という物理を使って解決するという根本的なアプローチで乗り越えようとしています。さらに、光ネットワーク上でそのまま演算ができるようになることで、通信と計算が一体となった「光ネイティブ」な情報処理基盤の実現が視野に入っています。

現在はその実現に向け、ユニタリ演算による汎用的な光回路の構築や、情報の入出力設計といったコア技術の確立を進めています。

※1 光導波路:光を閉じ込めて伝送する構造(例:光ファイバ)
※2 光コンピューティング:光の物理現象をそのまま情報処理に活かす技術
※3 ユニタリ演算:情報を失わずに変換する線形演算(量子計算・光演算に活用)
※4 AI:Artificial Intelligence(人工知能)


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