超低消費電力シリコン光回路データセンタ・情報通信機器を低消費電力化します

ナノ構造集積機能デバイス研究グループ

背景・従来課題

近年、FTTHなどのブロードバンドサービスやスマートフォンの爆発的普及に伴い、情報処理量が急激に増大しています。これにつれて、消費電力も膨らむことが想定され、特に情報処理量、消費電力量が膨大になるデータセンタ内/間やコンピュータ内などの短距離通信では、低消費電力化・低コスト化を同時に実現する技術の開発が必須となっています。シリコンプラットフォーム技術は、微細加工性と量産性に優れ、これを光デバイスに適用することで、超小型、低価格かつ低消費電力の光・電子融合デバイスを実現できるプラットフォームとして世界的に注目されています。

概要

NTT先端集積デバイス研究所では、Si(シリコン)基板上へのInP(インジウム燐)系薄膜の直接接合・結晶成長技術を開発し、Si基板上の異種材料・光電子回路融合に向けた集積化技術の開発を行っています。本シリコンプラットフォーム技術にて、超低消費電力で動作する単一モード直接変調薄膜DFBレーザや、世界最小しきい値電流で駆動するフォトニック結晶レーザ、超高効率で低損失なキャリア蓄積型光変調器などを実現しました。これらの技術を応用し、現在もっとも電力を消費している情報通信機器間の電気通信を光通信に置き換えることで大幅な省電力化が期待できます。

特徴

  • 圧倒的な経済性を有するSi-LSI製造技術の活用
  • Si系材料だけでは実現し得ないアクティブ光回路を異種材料融合
  • 光を微小領域に閉じ込める半導体微細構造によりシリコンプラットフォームにて超小型レーザを実現
  • データセンタ向け薄膜DFBレーザにより、VCSEL級の低消費電力を実証
  • チップ内/間通信向けフォトニック結晶レーザ(LEAP)により、世界最小しきい値電流を達成
  • Si系材料の特性限界を打破するキャリア蓄積型光変調器
  • アクティブ光回路とパッシブ光回路の融合集積技術
  • レーザとSi系導波路の集積により、光ファイバとの低損失結合

利用シーン

データセンタなどのラック間、ボード間の光配線やルータ、サーバなどの情報通信機器のチップ内・チップ間通信用光送信機など

利用シーン

技術解説

現在の光デバイスにアクティブ光材料として広く用いられているInPは、その性質上基板の大口径化が難しく、またレアメタルを含むため基板が高価であるという本質的課題を抱えていました。そこで本研究では、ウエハ直接接合によってSi基板上にSiO2を介してInP薄膜を形成し(III-V薄膜テンプレート)、このテンプレートを従来のInP基板と同様に結晶成長する技術を開発しました。これにより、光デバイスの抜本的な低消費エネルギー化・低コスト化が可能となり、シリコンプラットフォームにおける光源として利用することができます。

この異種材料融合技術とSi微細加工技術により作製した薄膜DFBレーザでは、消費電力:132 fJ/bit、伝送距離:10 kmの単一モード直接変調駆動を実現しました。この値は,主に短距離通信で使われている面発光レーザ(VCSEL)と同等以下の電力であり,長距離通信用途では例がない低消費電力です。さらに、パッシブ光回路との集積技術を用いてアレイ回折格子(AWG)を集積し、薄膜DFBレーザで波長多重通信を実証しました。また、フォトニック結晶レーザでは、31 μAというオンシリコンレーザにおいて世界最小閾値を達成しました。そして、同技術を光変調器にも適用し、変調効率(半波長電圧と変調領域の長さの積 VπL):0.09 V cm、挿入損失~1.0 dBという従来型Si変調器を大幅に上回る特性を実現しました。

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