超伝導マイクロ波共振器と2準位系集団の結合系は、量子情報処理実現のための有力な素子として考えられている。このようなハイブリッド素子を作製するために、従来の研究では原子中の電子スピンを用いることが多かった[1]。しかし天然の原子を用いると設計の自由度が小さく、パラメータの調整が難しいことが課題であった。これに対し、近年になり、回路設計の自由度が高い人工原子である「超伝導量子ビット」の集団をマイクロ波共振器に結合させるアプローチが注目を集めている。実際に8個の超伝導磁束量子ビットがマイクロ波共振器とコヒーレントに結合した例が報告されている[2]。そこで私たちは、4300個の超伝導磁束量子ビットをマイクロ波共振器の近傍に作製して実験を行った結果[3]、250 MHz程度の大きな周波数シフトが透過分光測定において観測された(図1)。理論解析を行った結果、この周波数シフトは、数千個の超伝導磁束量子ビットとマイクロ波共振器のコヒーレントな結合に由来することが示せた。我々の素子では、単一の超伝導磁束量子ビットとマイクロ波共振器の結合定数は、不均一広がりの線幅よりも2桁程度小さい。しかし、集団の超伝導磁束量子ビットが協調的に振る舞うことで、不均一広がりの線幅と同程度になるまで結合定数が増強されている。数千個という、これほど大きな数の超伝導量子ビットがマイクロ波共振器と結合した例は報告されておらず、量子情報実現のための重要な成果だといえる。
本研究はJSPS科研費JP15K17732とJP25220601、MEXT科研費JP15H05869とJP15H05870の助成を受けたものである。
図1 超伝導磁束量子ビット集団の結合した共振器の透過分光測定。(左)実験結果。(右)数値計算結果。 |