世界初、移動通信システムの電波の揺らぎから屋外の人流を推定する技術を商用電波で実証

2025年(令和7年)

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1. 研究背景
第6世代移動通信システム(6G)では、通信用電波を用いてセンシングを行うISAC (Integrated Sensing And Communications) が注目されている。ISACの利用形態の一つとして、移動通信システムにおける通信用の電波を活用し、通信機器周辺の状況をセンシングすることができる。そのため、点在する移動通信システムがセンサとしての役割を持つことができ、通信網の新たな付加価値の創出が期待される。ISACの活用先として、3GPP (3rd Generation Partnership Project) では図1に示す多数のユースケースが規定されている[1]。
一方で、これまでISACに関する実験検証例は少なく、それらも理論検討や実験用の基地局を用いた検証である[2][3]。そこで、我々は図2に示すように、3GPP規定のユースケースの中で屋外の道路における人流推定に注目し、実際に商用運用されている4G基地局の電波を活用した無線センシングの実証実験を実施した。開発した無線センシングシステムは、商用運用中の基地局から定期的に送出される通信のための同期用参照信号から電波伝搬情報を取得するものであり、深層学習を用いて受信機周辺の人流をセンシングする[4]。本記事では、本実証実験の内容と結果を解説するとともに、商用電波を用いた無線センシングの課題や今後の展望について述べる。

対象 ユースケース
屋外 人/
動物
・線路や高速道路への人/動物の侵入検知
・観光地の交通整理のための人流推定
車両 ・交差点の死角に対する障害物の検知
・運転支援向けの車両周辺のセンシング
・渋滞状況のセンシング
UAV ・UAVの飛行軌跡の追跡
・UAVの衝突回避のためのセンシング
天気 ・降雨量や洪水のモニタリング
屋内 工場 ・工場におけるAMR/AGVの位置追跡
・工場における作業状況のモニタリング
自宅 ・侵入者検知
・非接触な健康・睡眠モニタリング
・XRのためのジェスチャー認識

図1 ISACのユースケース


実証実験の概要

図2 実証実験の概要


2. ISACの無線センシング技術
ISACにおける無線センシングでは、通信用電波の電波伝搬情報に対して機械学習技術等を用いて機器周辺の状況を推定する。例えば、機器周辺で人が動くと電波伝搬に影響し、電波伝搬情報が変化する。この変化と人の動きの関係性を機械学習によって学習することで無線センシングをすることができる。本実証実験では、商用運用中の基地局が定期的に送出する同期用の参照信号から、電波伝搬情報としてRSSI (Received Signal Strength Indicator) とCSI (Channel State Information) を取得する。RSSIは受信電波の強度であり、CSIは伝搬による振幅・位相の変化を表す。そして、RSSIやCSIとカメラ画像から計測した通行者数との関係性を深層学習によって学習し、RSSIとCSIから通行者数を推定する。

3. 開発中の無線センシングシステム
我々が構築した無線センシングシステムを図3に示す[5]。オープンソースの4G/5GプラットフォームであるOAI (OpenAirInterface) を用いて、商用運用中の基地局の参照信号から電波伝搬情報を取得する。本システムはBPF (Band Pass Filter) とUSRP (Universal Software Radio Peripheral)、OAIを搭載したPCで構成される。受信した電波からBPFによって対象の周波数の電波のみ抜き出し、USRPによってI/Q信号に変換しデジタル化する。そして、OAIによってRSSIを取得し、加えてI/Q信号を解析することでCSIを取得する。本システムは、基地局が定期的に送出する参照信号を観測・解析するため、基地局の制御は必要なく、基地局への接続や通信も行わない。そのため、通信キャリアに依存せず、あらゆる基地局の電波を用いて無線センシングをすることができる。また、本システムは4Gと5Gどちらの基地局の参照信号でも電波伝搬情報を取得することができるが、本実証実験では最も受信電波強度が大きかった4Gの基地局の電波を対象とした。

無線センシングシステム[5]

図3 無線センシングシステム[5]


4. 実証実験
図4に示す屋外環境において、RSSIとCSIから道路の通行者数を推定する実証実験を行った。道路上に2本の受信アンテナを設置し、数十m先のビル上に設置された商用運用中の4G基地局の参照信号からRSSIとCSIを取得した。対象の基地局の電波はバンド1の2GHz帯である。また、カメラ画像から人物を検出し、各時刻における図4中の緑枠内の人数を通行者数の正解データとした。平日1日の午前10時半から午後2時の合計3時間半にわたって実験データを取得した。実験データには、授業中で人の往来が少ない時間帯と昼休憩等で往来が多い時間帯が含まれている。
RSSIとCSIから深層学習を用いて通行者数を推定する。このとき、様々な動きに対応するため、複数の時間窓幅で計算した移動標準偏差を用いる。一方で、CSIは周波数の異なる複数のサブキャリア、複数の送受信アンテナごとに取得でき、これらからは空間的な情報が得られる。そこで、CSIのサブキャリア間やアンテナ間の差分を計算して深層学習の入力とする。これによってRSSIからは時間的な特徴量が、CSIからは空間的な特徴量が抽出されることが期待される。深層学習に用いたニューラルネットワークの層構造を図5に示す。RSSIとその移動標準偏差は一次元の畳み込み層に、CSIのアンテナ間、サブキャリア間の差分は二次元の畳み込み層に入力する。そして、それらの出力を結合し、全結合層によって通行者数を推定する。損失関数には通行者数の推定値と正解値の間の二乗誤差を用いる。また、屋外環境では風による揺れ等、様々な外乱の影響を受けるため、精度低下の要因となる。そこで、入力データと人数の正解値にノイズを与えるデータ拡張技術を用いることで、精度の改善を図る。
図6に本実証実験における通行者数推定結果の誤差を示す。提案法の平均絶対誤差は1.26人であり、RSSIの移動標準偏差とCSIの空間情報、データ拡張技術を用いることで推定誤差を半減することができた、RSSIの移動標準偏差とCSIの空間情報を用いて、データ拡張を行わなかった場合と比較しても、誤差を11%減少させることができた。

実験環境

図4 実験環境


RSSIとCSIを用いた通行者数推定のニューラルネットワーク

図5 RSSIとCSIを用いた通行者数推定のニューラルネットワーク


実験結果

図6 実験結果


5. まとめ
本実証実験によって、商用運用中の基地局からの電波による無線センシングが可能であることを示した。我々が構築した無線センシングシステムは、4G、5Gの電波を活用することができるため、6Gの普及を待たずに様々なユースケースにおけるISACの検証を行うことができる。また、基地局が定期的に送出する参照信号を活用しているため、通信キャリアに依存せず、あらゆる場所での実験検証が可能である。

[1] 3GPP, "Feasibility Study on Integrated Sensing and Communication (Release 19)," 2024.
[2] M. De Sanctis, T. Rossi, S. Di Domenico, E. Cianca, G. Ligresti, and M. Ruggieri, "LTE signals for device-free crowd density estimation through CSI secant set and SVD," IEEE Access, vol. 7, pp. 159943-159951, 2019.
[3] C. A. G´omez-Vega, O. Y. Kolawole, M. Hunukumbure, T. Mach, M. Z. Win, and A. Conti, "Device-free localization: outdoor 5G experimentation at mm-waves," IEEE Commun. Let., vol. 27, no. 9, pp. 2353-2357, 2023.
[4] NTT, "世界初、移動通信システムの電波の揺らぎから屋外の人流を推定する技術を商用電波で実証", https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/26/250526a.html, 2025.
[5] H. Otani, T. Murakami, K. Ohara, S. Otsuki, Y. Takatori and T. Ogawa, "An Open-Source SDR-Based Device-Free Sensing Platform for Integrated Sensing and Communication (ISAC)," in IEEE Open Journal of the Communications Society, vol. 6, pp. 9982-9990, 2025.

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