【研究背景】 6Gに向けた更なる無線大容量化の実現手段として、ミリ波・サブテラヘルツ波帯の活用が期待されています。このような高周波数帯ではゾーン半径が小さく、多数の基地局が必要なため、従来の4G/5Gの移動体通信に加えて、無線LANのような非移動体無線通信もそのサービスエリアの補完やトラヒックオフロードとして活用することが期待されています。
【技術概要】 無線LANのような非移動体無線通信の活用に向けて、60GHz帯無線LAN(WiGig)において、高速移動環境下での無瞬断大容量無線伝送を実現しました。 WiGigは無線LANの60GHz帯版であり、1周波数チャネルで最大4.62Gbit/sの無線伝送が可能です。ただし、端末局が同時に複数の基地局と接続し、無瞬断で基地局を切り替えることができる機能や、基地局と接続しながら他の基地局を観測する機能を持たないため、端末が移動しても通信を維持しながら接続先の基地局を適切に切替えることができません。そのため、大容量の無線伝送を継続した状態のまま、複数の無線ゾーン間を移動することが難しく、車、鉄道、ドローンなどの高速移動体へ適用することが困難でした。 この問題を解決し、さらに高速鉄道(時速200km以上)を含めた幅広い移動速度範囲の利用シーンに対応するため、WiGigの通信電波を用いた無線端末の自律測位に基づき、適切な切替えタイミングと切替え先の基地局を制御する手法(以下、「基地局切替え制御」)(図1)を考案しました。上りスループット1Gbit/sのまま、500msec以内に基地局を切替えることが可能となります。
さらに、基地局切替え時の基地局探索動作と初期接続動作に伴い、約500msecの通信断が発生するため、再送遅延やパケット損失が必要となり、リアルタイムを要する映像データや常時高スループットを要するデータ一括転送などへの適用が困難となる。この課題に対して、無線端末内に複数の無線機能部を装備する端末主導の動的サイトダイバーシティ制御技術を考案しました(図2)。
移動体内のアプリケーションは制御機能部を介して複数の無線機能部と接続します。各無線機能部は各々が無線基地局と接続し、上記の基地局切替え制御を行います。その下で、制御機能部は以下の①②の制御を行います。
①無線品質の良い無線機能部を随時選択して切替えます。この切替えは制御機能部上で無瞬断にシームレスに行われるため、アプリケーションには影響しません(図2の①)。 ②各無線機能部が互いに異なる基地局へ接続するよう制御します(図2の②)。
②の制御により、各無線機能部の基地局切替えタイミングをずらし、両無線機能部が同時に基地局を切り替えることを回避します。これと①の技術を組み合わせることにより、片側の無線機能部が基地局を切替えている間、もう片側の無線機能部で無線伝送を行い、通信断を回避します。
以上により、端末局が同時に複数の基地局と接続し、無瞬断で基地局を切り替えることができる機能や、基地局と接続しながら他の基地局を観測する機能の無い非移動体無線通信でも、高速移動環境下において、無瞬断で大容量無線伝送を行うことが可能となります。
また、①②の技術は、レイヤ2以下の下位レイヤに閉じた制御であるため、上位レイヤに対して、複数の無線端末に対応した冗長伝送などの特別な処理は不要です。
【実証実験】
本技術の実証実験を、超高速移動環境を再現可能なフォーミュラカーを使用して、2021年12月7日(火)~8日(水)に鈴鹿サーキットで開催された「全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト・ルーキーテスト」において、レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」によるフォーミュラカーの提供とオペレーションに関する協力を得て、実施しました(図3)。
これまで長期に亘り実施してきたフォーミュラカーによる各種通信実験の経験も踏まえて、WiGig無線端末(無線機能部)はフォーミュラカーの両サイドポッド、制御端末(制御機能部)はフォーミュラカーの左サイド内部の空きスペース部分に各々搭載し、WiGig基地局は、コース上で最高速度が出るメインストレートのコース両サイドに各々2台設置しました(図4)。制御端末からデータを転送し、各WiGig基地局が受信するレイヤ2での上りスループットを測定することにより、考案した基地局切替え制御とサイトダイバーシティ制御技術の性能評価を行いました。
図5にレイヤ2での上りスループットを測定した実験結果を示します。(a)は従来技術の場合、(b) は基地局切替え制御技術を適用した場合、(c) は基地局切替え制御技術およびサイトダイバーシティ制御技術を適用した場合です。
従来技術の(a)と比較して、(b)の場合は基地局2台のゾーンに渡り無線伝送ができていますが、その切替え時に、約500msecの間、無線伝送ができていない時間帯が発生しています。一方、(c)の場合、無線伝送できていない時間帯が無く、基地局4台のゾーンに渡り無線伝送できています。以上より、複数基地局間を無瞬断で無線伝送できることが確認できました。 更に、超高速移動環境である時速260kmの走行中でも、平均スループット1Gbit/s以上のまま、無瞬断に無線伝送できることを確認しました。