離島向けの観光地Wi-Fiサービスに用いる、本島-離島間を結ぶ固定無線システム設計に必要となる海上伝搬特性を推定可能な伝搬モデルを構築しました。5GHz帯と25GHz帯を用いた長崎県沿岸の海上伝搬特性の長期間の測定結果から、潮位変動に伴うフェージングが発生することに加え、波高が高い場合には変動幅が小さくなり、より複雑なフェージングとなることを明らかにしました。このようなフェージングをモデル化することにより、本島-離島間での無線通信品質を予測可能としました。
(1) 研究背景
公衆無線LAN(Local Area Network)は広く普及しており、海外からのインバウンド需要などに伴い観光地への敷設が進められています。そのような観光地の中でも都市部から離れたルーラルエリアでは有線回線の確保が難しいため、無線LANアクセスポイントの基幹回線への接続が課題となります。ルーラルエリアとして、特に日本では数多くの離島が存在するため、簡易に本土と離島間を結ぶことが可能な固定無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)システムが有力な手段の一つです。このような離島向けFWAシステムを構築するためには,海上伝搬経路における電波伝搬特性の把握が必要不可欠です。
海上伝搬特性に関する過去の検討では100kmオーダの長距離の海上伝搬が主眼であったため、フェージングの主要因は大気屈折率の変化に伴うダクト等でした。しかし、本土と離島間との距離はほとんどが10数kmオーダであり、上記のようなダクト等の影響は比較的小さくなります。このような場合、どのようなフェージングとなるかは明確にされていませんでした。
(2) 海面状況を考慮した海上伝搬特性の概要
海上伝搬特性では送信アンテナから受信アンテナへ直接到来する直接波と、海面で反射してから到来する反射波の2波が主に存在します。この2波は伝搬する経路長がわずかに異なるため、2波の位相によっては互いに強めあったり(同相)弱めあったり(逆相)して受信アンテナへ到達します。この際、潮の満ち引きにより潮位変動が起こると海面反射波の経路長が変化するため、潮位変動に伴ってフェージングが引き起こされます。
また、風が強い日などは海面に波がたちますが、特に25GHz帯のように周波数が高くなると、波高が高くなると海面反射波が波によって散乱されることで受信アンテナへ到達しにくくなります。このような場合には直接波に対して強めあったり弱めあったりする効果が小さくなるため、潮位変動が起きてもフェージングが起こりにくくなります。そのため、これらの潮位や波高といった海面状況を考慮することが必要です。本成果では、気象庁が公開しているこれらの海洋データを用いることで、フェージングを推定可能であることを明らかにしました。これにより、本島-離島間での無線通信品質を予測することが可能となります。
<用語解説>
*1 フェージング:受信する電波の強度が変動すること。
*2 ダクト:地表から数kmまでの間に発生する気圧や温度の異なる空気の層であり、特定の条件においては海上伝搬経路の屈折等を引き起こしフェージングの要因となる。
*3 RSSI:Received Signal Strength Indicatorの略。受信信号の強度を表す。