20-40GHz帯における都市部・住宅地環境伝搬損失モデル
高い周波数帯を用いる次世代の無線アクセスを想定した、携帯電話や無線LANの利用シーンで利用可能な20-40GHz帯の伝搬損失モデルを確立しましたので紹介します。
- 構築した高周波数帯伝搬損失モデルの概要
次世代無線アクセスシステムの適用先として携帯電話や無線LAN等の利用シーンで重要な都市部環境と住宅地環境に着目し、伝搬測定やシミュレーションを通して電波伝搬現象の解明を進めました。その結果、目に見えない電波伝搬現象から支配的な伝搬経路を抽出することで、これまで6GHz以下でしか解明されていない広範囲にわたる伝搬損失特性を新たに高周波数帯で明らかにし、様々な環境での高周波数帯伝搬損失モデルを確立しました。
具体的には、都市部環境においては送信機(Tx)と受信機(Rx)の間に見通しのある見通し領域、ビル遮蔽のある見通し外領域、これらの切り替わるコーナー領域の3つの領域における伝搬経路について、それぞれ伝搬損失特性を抽出することで伝搬損失モデルを確立しました。
また、住宅地環境においてはTxとRxの間において、道路に沿って伝搬する道路沿い伝搬経路、建物の間を伝搬する建物間伝搬経路、建物の上を伝搬する屋根超え伝搬経路の3つの伝搬経路を抽出することで伝搬損失モデルを確立しました。
このように、無線アクセスにおける伝搬特性について、これらの支配的な伝搬経路を用いることで、簡単なパラメータから広範囲にわたる伝搬損失を高精度に計算できる伝搬損失モデルを世界に先駆けて確立しています。
(a)都市部 (b)住宅地 - 確立した伝搬損失モデルの計算例
確立した伝搬損失モデルの推定精度を検証した結果を下図に示します。
高層ビルの立ち並ぶ都市部環境、および一戸建て家屋の多い住宅地環境において、高周波数帯である26GHzと37GHzを用いた伝搬損失の測定結果と比較を行いました。
本図(a)において、都市部環境では約180m地点においてRxが交差点を曲がり、見通し領域から見通し外領域へ変化しており、伝搬損失が急激に増加しています。
また、本図(b)に示す住宅地環境では、交差点や建物の遮蔽によりTxからの見通し状況が変化するA~Eの各領域間を移動する際に、伝搬損失が大きく変動しています。
どちらの環境についても、確立した伝搬損失モデルが全ての領域において精度よく測定結果を推定できています。RMS誤差は5dB以下となっており、システム設計に活用できる十分に高精度な推定結果となっています。
(a)都市部 (b)住宅地
このように、確立した高周波数帯における伝搬損失モデルは簡単なパラメータを用いることで実環境における伝搬損失特性を高精度に推定することが可能なため、高周波数帯を用いる様々な次世代無線アクセスシステム構築へ向けた通信方式の特性評価やエリア設計に役立てることができます。
昨今では第5世代移動通信システムについて高周波数帯の活用へ向けた研究や標準化議論が世界的に盛んになっているため、そのような次世代無線システムの実用化加速に本成果を活用することが期待できます。
今後は、様々な無線システム構築へ柔軟に対応できるよう、さらに幅広い環境や周波数帯に対応した電波伝搬モデルの研究開発に取り組んでいく予定です。