アクセスサービスシステム研究所では、実社会とのインタラクションを常に伴うアクセス系オペレーションを対象に、その仕組みの変革や価値の連鎖的拡大を実現し、オペレータの生産性を向上(働き方改革・DX)させるシステム・技術の開発に取り組んできました。これらは、アクセスネットワークの設備管理に留まらず、さまざまな業務に汎用的に適用可能です。
(1) マーケティング分析支援システム(M3S)
定量的なデータベースマーケティングの一手法として、データマイニング分析プロセスが用いられてきましたが、市販ツールをそのまま適用しただけでは、一連のプロセスループを回すには不十分でした。そこで、アクセスサービスシステム研究所では、マーケティング分析業務の現場において高度な統計スキルを持たなくとも精度を落とすことなく簡易な操作でデータマイニング分析プロセスが実施できるようにシステム化を図ったマーケティング分析支援システムM3S(Marketing Analysis Support System)を2003年に開発しました。
(2) 業務プロセス可視化・分析システム(BPOST)
多くの企業では複数の組織にまたがる業務の効率的のため、下図のような業務プロセスモデルに合わせて業務システムの開発・利用を行っていますが、実際には、想定どおりに業務が行われない場合や、市場の動向と業務担当者のスキルの変化に応じて、業務プロセスが次第に変化していくことがあるため、これに合わせて、業務プロセス管理を継続的に行うことが必要になっています。
業務プロセス管理を継続的に行うためには、業務プロセス管理、特に業務の現状把握には時間と労力がかかるため、これらの削減が課題になっています。
そこで、アクセスサービスシステム研究所では、2008年に、自動的に記録される複数の業務システムの実行履歴を基に、実際の業務の進め方(業務プロセス)を再現、可視化し、さまざまな観点で分析できる業務プロセス可視化・分析システムBPOST(Business Process Optimization Support Tool)を開発しました。
(3) オペレータの操作を自動化するソフトウェア(UMS)
アクセス網の維持管理を行うオペレーションには、OpS(Operation Support System)の存在が不可欠です。しかし、全ての業務に対してOpSを最適化することは難しいため、冗長・単調な操作を必要とする業務が発生し、オペレーションコストの増大を招いていました。この課題に対しては、冗長・単調な操作を自動化することで解決することができます。そこで、アクセスサービスシステム研究所は、2010年にオペレータの操作を自動化するソフトウェアUMS(Unified Management Support System)を開発しました。2011年には商用OpSに導入され、多様な業務領域において効率化を達成しています。続けて、2012年にVer.2、2013年にVer.3の開発を行い、様々な機能改善や新機能追加を行いました。2013年12月には、アクセスサービスシステム研究所での開発・保守体制は終了し、開発主体をNTTアドバンステクノロジへ移行しました。
(4) 異なるNW間で情報を安全かつ簡易に流通させるデータブリッジ
業務上、他社の出先端末など、別ネットワークの端末とのデータ受け渡しを求められることがあります。従来、こうした場面では、USBメモリを使った端末間の情報のコピーや、片方の端末で紙印刷し、他方の端末で再投入するという人手による情報流通が行われています。しかし、USBメモリの紛失などによる情報漏えいのリスクや媒体の管理稼働、情報再投入時の投入ミスなどが課題となっていました。
そこで、アクセスサービスシステム研究所では、この課題を解決するため、クライアント端末データ流通システム(通称:データブリッジ)を開発しました。データブリッジは、セキュリティ要件を満たしつつ必要なデータのみを流通させる仕組みを実現します。2015年1月に、アクセスサービスシステム研究所での開発・保守体制は終了し、開発主体をNTTソフトウェアへ移行しました。
(5)自由にPC画面上に情報を表示するアノテーション表示・編集技術
熟練作業者のノウハウ継承、アプリケーションの利用方法の利用形態ごとの通知、特定の言語話者に合わせたローカライズなど、業務を取り巻く環境における知識継承の促進、運用の効率化やアプリケーションの更改が必要となっています。しかし、それぞれの要望に合わせてアプリケーション自体を改造することには時間とコストがかかるため、現実的ではありません。そこでアクセスサービスシステム研究所は、アプリケーションとは別に画像認識によって、自由に端末画面上に情報を表示できるアノテーション表示・編集技術を2014年に開発しました。
(6)非定型業務の更なる効率化を実現する高度アノテーション付与技術
アクセスサービスシステム研究所では、標準化や定型化が難しく人の判断が含まれる業務(非定型業務)の効率化のため、業務上のノウハウやシステムの操作手順などをシステム画面上に直接表示することでユーザの判断を支援するアノテーション表示・編集技術を2014年に開発しました。しかしながら、より複雑なフローの業務を対象とした場合には、同じシステム画面でも業務内容やユーザ操作に応じて表示するアノテーションを動的に切替え、必要な情報だけを表示させることが簡易に設定できないといった課題がありました。このような更なる業務効率化のニーズの高まりを受け、Webシステムに特化することにより、ユーザの操作や業務、習熟度に合わせて柔軟な情報表示ができる高度アノテーション付与技術を2018年に開発しました。
(7)Webシステムを自分達で賢く便利にするユーザインタフェース拡張技術
近年、オペレータの作業をソフトウェアロボットが代行することで業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)の適用が進んでいます。しかし、頻繁に人の判断が必要になる作業等、ロボットによる代行が難しい業務も数多く存在しています。そこでアクセスサービスシステム研究所では、ロボットへの置き換えが難しい業務について、既存のWebシステム画面をオペレータ自身の手で賢く、使いやすく高度化することで、更なる生産性向上を実現するユーザインタフェース拡張技術を2019年に開発しました。
(8)業務の客観的・定量的な分析を支援する業務可視化技術
アクセスサービスシステム研究所では、これまでRPA(Robotic Process Automation)やアノテーション・UI拡張技術などのPC作業を伴う業務の効率化を実現する様々な技術を生み出してきました。RPAやアノテーション・UI拡張技術の導入事例を積み重ねる中で、導入におけるいくつかの課題が明らかになってきました。例えば、RPAを導入するには、業務の中で問題のある作業や自動化が可能な作業を見つけ出したうえで、RPAに適した業務プロセスを設計する必要があります。RPA適用に必要な業務の情報を集めるもっとも一般的な方法は、現場担当者へのヒアリングです。しかし、ヒアリングだけでは主観による影響が大きく客観的・定量的な分析ができないため、RPA適用が効果的に進められないという課題がありました。この課題は、RPA適用の例のみならず、BPM(ビジネスプロセス・マネジメント)のような一般的な業務改善活動においても同じであり、ヒアリングだけではない、定量的な情報に基づく客観的な業務分析の方法が求められています。この問題を解決するために、PC操作をログとして記録し、観点・粒度を自在に切り替えながら可視化することで、業務の客観的・定量的な分析をサポートする業務可視化技術を2019年に開発しました。
(9)ネットワーク種別に依存しない統一管理モデルを用いたサービス影響把握技術
近年、地震や台風等に起因した大規模な災害による通信ビルやケーブルの損傷により通信サービスの提供に支障をきたす事例が増えています。しかし、通信事業者のネットワークは、さまざまな通信技術を組み合わせて全国エリアのサービスをカバーしており、あるエリアの設備損傷が他のエリアのサービスや他の種別のサービスに影響を与える場合が多い。また、通信サービスの種別毎によりネットワーク構成が異なることや,各々のネットワークを管理するオペレーションシステム(OpS:Operation System)も異なる場合が多いため、被災により生じるすべてのサービス影響を迅速に把握することが困難です。
そのような状況において、被災設備によって生じるサービス影響を迅速に把握し、膨大な被災設備の中から優先的に復旧すべき設備の判断を支援する技術が求められています。この問題を解決するため、NTTアクセスサービスシステム研究所では、ネットワーク種別に依存しない統一管理モデル(NOIM:Network Operation Injected Model)を用いて、多数の通信技術を組み合わせた複雑な通信事業者のネットワークにおいて、通信設備障害により発生するサービス影響を迅速に把握する統一管理モデルを用いたサービス影響把握技術を2020年に開発しました。
また、本技術を活用し、災害発生時に大規模な設備故障が発生したときに、どの設備を優先するかを導出する汎用データモデル(NOIM)による災害時の復旧優先度算出技術を2023年に成果提供しました。
(10)ネットワーク障害対応を自動化するルール学習型障害箇所推定・対処支援技術
大規模ネットワークにおける障害対応では、スキルを有する保守者が、ネットワーク装置やサーバから挙がる大量のアラームを分析し、導通試験等により障害箇所や原因の切り分け作業を行い、復旧方法を特定する必要があります。これらの作業には、数時間~数日を要することもあります。アクセスサービスシステム研究所では、この分析・切り分け作業を短縮し、障害復旧の迅速化による保守業務の負担軽減(OPEX削減)を目指した研究開発に取り組み、これまで保守者のスキルとノウハウに頼って手作業で実施していた障害箇所の切り分け、要因特定、復旧方法の特定を自動化する技術としてルール学習型障害箇所推定・対処支援技術を2020年に開発しました。
(11) 多面的な考慮が必要とされる割当業務を采配する采配高度化技術
ヒトが残る業務では、新人やベテランが入り交じる限られた人的リソースの中で、環境の変化にいかに対応しながら業務を進めるかが重要であり、その肝となるのが、人的リソース割当業務です。現在、人的リソース割当業務の多くは、熟練者の勘と経験に頼っています。しかし、VUCAの時代において環境変化の複雑性が増すことや熟練者が減少することから、割当の効率化や業務品質の維持に向け、技術による支援が有効です。アクセスサービスシステム研究所では、割当案作成の判断時に利用される多面的に考慮すべき項目を、数理最適化を用いながら可視化・再利用化する研究開発に取り組み、熟練者の判断に近い割当案を自動的に導き出す采配高度化エンジンを2021年に開発しました。
(12) クラウドサーバリソース最適制御技術
サービスの取り巻く環境が変化し、ユーザ体感品質要件を満足するためにリソース設計が重要となります。サービスの多様化およびリソース制御の複雑化によって、従来のサービス技術者の経験頼りもしくはシステムパフォーマンスベースでのリソース設計・制御には次のような課題が存在します。
・リソース設計にはサービス技術者の経験・高スキルが必要
・ユーザ品質要件・利用状況に則したサービス提供が困難
・余剰リソースの割当
アクセスサービスシステム研究所では、ユーザ体感品質要件を「Intent(意図)」として取り扱い、Intentを満たす最適なクラウドリソースをプロアクティブに自動算出するクラウドサーバリソース最適制御技術の研究開発に取り組んできました。
標準化団体ETSI ENI ISG で、「クラウドサーバリソース最適制御技術の標準化及びPoC実現」を進めてきました。また、クラウドサーバリソース最適制御技術をWeb会議サービスや仮想デスクトップサービス等に適用し、2022年に成果提供しました。
(13) DX推進に貢献する操作プロセス分類型業務デザイン支援技術
近年、DX (Digital transformation)と呼ばれるデジタル技術を活用した業務改善の取り組みが注目されています。特に現場主導DXの代表格であるデスクワークの自動化を主目的としたRPA(Robotic Process Automation)適用は多くの企業・行政で一般的になってきています。 しかし,実際には、複雑な業務プロセスの場合、業務に精通しているベテランのオペレータでさえ、どこの個所へRPA技術を適用すれば効果的な改善につなげられるかを判断するのは非常に難しくなっています。この課題は、RPA適用の例のみならず、BPM(ビジネスプロセス・マネジメント)のような一般的な業務改善活動においても同じであり、定量的な情報に基づく客観的な業務分析の方法が求められています。 アクセスサービスシステム研究所では、現場主導の客観的な業務分析技術として、「現状把握」「分析・改善案計画立案」「改善案実行」のステップを支援することができる「操作プロセス分類型業務デザイン支援技術」を2022年に開発しました。