ユビキタスコンピューティングの最前線|難関国際会議PerCom2025・UbiComp2025参加レポート
#セキュリティ #HCI #機械学習
記事の概要
2025年3月と10月にそれぞれユビキタスコンピューティングの難関国際会議であるPerCom2025@ワシントンD.C.とUbiComp2025@ヘルシンキに参加し、研究発表をしてきました。本記事では、各学会や開催地の雰囲気や社会情報研究所が発表した研究の概要と展望についてお伝えします。
1. PerComとは? UbiCompとは?
PerComとUbiCompはどちらもユビキタスコンピューティング分野のトップカンファレンスであり、今日では扱う研究内容もコミュニティも類似しています。ここではその共通点や相違点を中心に今年の開催概要をまとめます。
1-1. PerCom2025
PerCom(IEEE International Conference on Pervasive Computing and Communications)は元々は無線ネットワークや分散コンピューティングが主流でしたが、今日ではIoTやウェアラブル、行動識別などユビキタスコンピューティングの幅広い領域を扱っています。
PerCom2025(図1)はワシントンD.C.にあるWalter E. Convention Center(図2)において2025年3月17日-21日に開催されました。参加者は270人程度、採択率は15.7%でした。著者の国別シェア上位はアメリカ、日本、中国、インド、オーストラリアでした。
1-2. UbiComp2025
UbiComp(The ACM international joint conference on pervasive and ubiquitous computing)は2017年からジャーナル化し、ジャーナルIMWUT(Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies)に採択された論文を招待する形式で開催しています。ロゴが一体化しているように、2011年からウェアラブルコンピューティングの国際会議ISWC(The International Symposium on Wearable Computers)との併催も続けています。
UbiComp2025(図3)はヘルシンキの隣、エスポーにあるAalto大学(図4)で2025年10月12日-16日に開催されました。参加者は800人超、IMWUTの採択率は23-26%程度、ISWCの採択率はnoteで24.5%、briefで43.8%でした。IMWUTの著者の国別シェア上位は中国、アメリカ、香港、ドイツ、日本でした。なお、IMWUTの詳細な統計情報はhttps://tinyurl.com/IMWUTSTATSで公開されています。
図3 UbiComp2025(出典:UbiComp / ISWC 2025 )
UbiCompはソーシャルイベントも盛んで、2025年はAalto大学の立地や建築を活かしたUbiHikeやUbiCampusなどの企画があり、ランチタイムを使って参加しました。UbiHikeでは会場付近を5kmほど学会参加者と会話しながら歩いて森と湖の国フィンランドを肌で感じ(図5)、UbiCampusではAalto大学の学生が案内役のツアーにおいて、大学名にもなっているフィンランドの著名な建築家兼デザイナーのAlvar AaltoやそのAalto建築、大学内の建築(図6)に関して見学しながら説明を聞きました。
1-3. 各学会の特徴比較と特徴的な2つの発表
PerComとUbiCompでは前述の通り分野が被っていますが、学会の形式などにおいては相違点があるため、表1にまとめました。
| PerCom | UbiComp(IMWUT) | |
|---|---|---|
| 開催時期 | 3月 | 10月 |
| 運営主体 | IEEE | ACM |
| 投稿時期 | 9-10月 | 11, 2, 5月(年3回) |
| 会議セッション | シングル(※1) | 3-4パラレル |
| 採択率 | 15%程度(※1) | 25%程度 |
※1 2026年からセッション形式はspotlight + interactive形式に移行するとのことで、採択率も上昇するかもしれません
ここでは、その相違点が特に現れていると感じた研究発表についても触れます。
・FineSat: Enhancing GNSS Signals for High-precision Sensing (A. Yu et al., Peking Univ., PerCom2025)[1]
GNSS 信号の衛星運動と受信機誤差の干渉を数理モデル化し、多項式フィッティングによる衛星運動補正と衛星間差分による誤差除去により高精度化しています。市販デバイスで実装し、複数のアプリケーションにおいて評価しています。呼吸検知で平均誤差 0.42 bpm、ジェスチャ認識で 96.5%、侵入検知で 98.6% の精度を達成しており、実験環境の制約が大きいなどの課題を残しつつも、GNSS 活用の新たな可能性を示している点が大きな貢献だと思います。
・Ethical Disengagement in Mobile Games: The Effects of Loading Delay and Grayscale on User Engagement (Y. Nakamura et al., Kyushu Univ., IMWUT2025)[2]
モバイルゲームにおけるユーザの過度な没入を抑制することを目的に、ロード時間の遅延とグレースケール表示という2つの設計介入がプレイヤ行動に与える影響を全世界84,000人で検証しています。両者組み合わせ条件(10秒遅延+グレースケール)で平均プレイ時間が30.8%、リテンション率が40.4%低下し、ユーザタイプや地域によって効果が異なることから、プレイヤ特性に応じた倫理的ゲーム設計が有効であることを示しており、全世界で100万オーダーのダウンロード数を誇るシンプルなモバイルゲームを研究フィールドに持っているからこそ実施できた規模の実ユーザ検証が大きな貢献だと思います。
2. 研究発表の内容とBest Demo Awardの受賞
2-1. Efficient Privacy-Preserving Data Annotation via Active PrivBayes Synthetic Data Generation[3]
PerCom2025ではWork in Progressセッションにおいて発表を行いました(図7)。従来のAIセキュリティ領域におけるプライバシ保護技術では、AIモデルの学習データや入力クエリ、出力結果における保護が注目されますが、本プロジェクトではデータサイエンスを行う人間も系に含めたAIライフサイクル全体でデータプライバシを保護することに取り組んでいます。本研究では、能動学習(データのラベル付け、アノテーションを人間が効率的に行うためにAIが補助する技術)と差分プライバシ(プライバシ保護の程度を定量的に評価、保証する枠組み)を組み合わせて合成データ(実際のデータに基づいた特徴をデータセット全体では示すものの、個々のデータは実データと似て非なるデータ)を生成し、人間は実データを全く参照することなく、その提示された合成データにのみアノテーションを行う手法を提案しました。これにより、実データのプライバシ保護を保証しつつ、人間のアノテーション稼働の最小化とその学習データを学習することで得られるAIモデルの性能最大化を同時に達成できることをオープンデータセットにより示しています。
本報告の著者はOsamu Saisho, Takayuki Miura, Kazuki Iwahana, Masanobu Kii, Rina Okadaです。なお、本取り組みの後続としてまとめた論文がJIP (Journal of Information Processing) 2025年12月号にRecommended Paperとして掲載されます[4]。
2-2. Natural Thermal Tracker for Core Body Temperature Application to Improve Personal Daily Life [5]
UbiComp2025ではDemoセッションにおいて発表を行い(図8, 9)、Best Demo Awardを頂きました(図10)。 NTT株式会社では新しいウェアラブルデバイスとして深部体温センサの研究開発に取り組んでいます。本デバイスは肌に貼るだけで深部体温を連続的に測定できます。内部に組み込まれた複数の温度センサデータの解析と生体深部からの熱の流れを正確に測るための独自構造によって深部体温推定を可能にしました。
本報告では内部の温度センサの出力を活用し、深部体温だけでなくユーザの行動の激しさも同時に推定する技術を実現しました。これにより、深部体温データと運動などの日常の行動を対応付けたモニタリングやその先にある行動変容を促す介入といった新しいアプリケーションの可能性を示しています。
実際のデモでは、深部体温センサの手軽さやデザインを手にとって確認してもらうだけではなく、開催地フィンランドのサウナ文化に対して日本の足湯文化を紹介するという工夫をしました。フットウォーマーを足湯に見立て、参加者自身が足を温めながら額に装着したセンサの出力、深部体温の上昇をスマホでリアルタイムに確認してもらう構成で、現地の外気体感気温が5度前後と寒い中、その快適さも含めて好評でした。
本報告の著者は、Osamu Saisho, Masami Takahashi, Yujiro Tanaka, Daichi Matsunaga, Takafumi Inoue, Takuro Tajimaです。なお、この深部体温センサはNTTグループ会社においてプロダクト化予定です。試してみたい方はぜひご連絡ください。
3. ワシントンD.C.の春、ヘルシンキの秋
PerCom2025が行われたワシントンD.C.はアメリカ随一の桜の名所であり、3月という桜の時期には街中フェスティバルの様相で国内外から多くの人が訪れます。当初は学会開催期間が満開の時期と重なる予想でしたが、実際には開花が遅れ、最終日あたりにようやく咲き始めた桜を少しだけ見ることができました (図11)。それでもライトアップ(図12)などを通して、街の雰囲気を感じられました。
UbiComp2025が行われたヘルシンキの10月は紅葉終盤、冬間近の気候で寒さを感じつつも、街なかや大学構内を歩くだけでも北欧の自然を感じられました(図13・14)。フィンランド文化であるサウナは宿泊先にもあり、滞在中に体験することができました。
4. おわりに
NTT社会情報研究所では社会を構成する人にまつわること、AIにまつわること、そして両者が共存、交流することで実現できることや生じる問題に関して、個人単位でも幅広い研究に取り組んでいます。今年のPerCom、UbiCompはどちらもNTT株式会社からは1名での参加でしたが、今後も仲間を増やしながらこれらのフィールドに積極的に貢献していきます。
参考文献
[2]Y. Nakamura et al., "Ethical Disengagement in Mobile Games: The Effects of Loading Delay and Grayscale on User Engagement," IMWUT Vol. 9 (2025 Mar.)
[3]O. Saisho et al., "Efficient Privacy-Preserving Data Annotation via Active PrivBayes Synthetic Data Generation," PerCom WiP 2025